コラム

次期財務大臣が民主党政権を救う

2009年08月21日(金)09時18分

 8月30日に行われる総選挙に向けて作成された民主党の比例代表名簿に、最後の最後で衆院南関東ブロックのリストに滑り込んだ人物がいる。藤井裕久最高顧問(77)だ。すでに引退を表明していた藤井だが、政界でのキャリアは長い。旧大蔵省出身で、76年に同省主計局主計官の役職を辞した後、政治の道へ。自民党に所属して参議院議員に2期当選し、その後は新生党、新進党、自由党、民主党にて衆議院議員を6期務めた。細川内閣と羽田内閣では蔵相も経験した。今回、藤井は民主党の鳩山由紀夫代表の熱心な説得で、もう一度出馬することを決めたようだ。

 鳩山が藤井に出馬を要請した理由は明白だ。民主党が政権を担うことになったら、どうしても経験豊かな政治家が必要になるからだ。岡田克也幹事長は20日、藤井が鳩山内閣の中心的な存在になることを示唆した。ただし鳩山は賢明にも、政府の主要ポストは国会議員が就くべきだと語った。そうなると、藤井がもう一度出馬することになったのは自然な成り行きだ。藤井が登載された南関東ブロックの名簿を見る限り、小沢一郎代表代行と近い関係であることも有利に働いているようだ。

 以前私は、予算編成において政治家により大きな権限を与えることへの藤井の姿勢について書いた。藤井の現実路線は、少なくとも2010年の参院選、あるいはもっと先まで民主党を優位に導く最良なアプローチかもしれない。財務省の舵取りをする能力があることを国民(と投資家)に示すことは、民主党が政権を獲得してから直面する他の重要課題と同じくらい重要だ。一方で、財務省からも「民主党は誠意を示した」と受け取られる可能性がある。そうなれば、財務省から民主党の計画への賛同を得やすくなる。

 私は今も、民主党が政権を獲得したら、政権移行期間の後に急激な変革を推し進めるのではないかと思っている。ただし藤井がいれば、少なくとも民主党政権を1年ないし2年継続させる助けになるかもしれない。閣僚経験者の少ない民主党は、あらゆる助けを必要としている。藤井の年齢を懸念する声もあるが、98年には79歳になったばかりの宮沢喜一が蔵相に再び就任し、2年以上もその職務を担った。これは中曽根内閣以来、最長だ。

 鳩山のリーダーシップが疑問視されるなか、民主党が政権を獲得した際にはよい閣僚選びがなおさら重要になる。藤井を選んだ動きはいい兆しだ。彼に出馬を要請することで、少なくとも鳩山は自分の政権には優秀な人材が必要になると理解していることを示した。

 残るは小沢問題だが......。

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

EU、ガザ復興への影響力最大化へ和平理事会参加を検

ワールド

マクロスコープ:政界混乱示す「総総分離」案、専門家

ビジネス

欧州企業、第3四半期は前年比0.5%増益へ=アナリ

ビジネス

中国CPI・PPI、9月はともに下落 需要低迷でデ
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道されない、被害の状況と実態
  • 2
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 5
    【クイズ】アメリカで最も「死亡者」が多く、「給与…
  • 6
    「欧州最大の企業」がデンマークで生まれたワケ...奇…
  • 7
    イーロン・マスク、新構想「Macrohard」でマイクロソ…
  • 8
    「中国に待ち伏せされた!」レアアース規制にトラン…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな飼い主との「イケイケなダンス」姿に涙と感動の声
  • 3
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 4
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    ベゾス妻 vs C・ロナウド婚約者、バチバチ「指輪対決…
  • 7
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 8
    ウクライナの英雄、ロシアの難敵──アゾフ旅団はなぜ…
  • 9
    「中国のビットコイン女王」が英国で有罪...押収され…
  • 10
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 5
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story