コラム

「麻生降ろし」は自民党崩壊劇の最終章だ

2009年06月22日(月)14時53分

「政局より政策」を掲げてきた麻生政権だが、最近の状態は自民党内の政治的混乱という「伝染病」に感染しないよう必死になっている免疫不全の患者にそっくりだ。

 もっとも、麻生政権が末期症状に陥った原因に、民主党はほとんど関与していない。むしろ、小沢一郎を長い間党首の座にとどめたことで、もう少しで自民党を復活させるところだった。

 それでも今では、民主党は自民党が自滅するのを静観する以外にほとんど何もする必要がない。あとは総選挙の日程が争点になるよう、参議院での審議を迅速に進めれば、自民党の崩壊プロセスを後押しできる。

 一方、麻生太郎首相は「麻生降ろし」につながる自民党総裁選の前倒しを実施するかという新たな難題に直面している。

 9月に予定される総裁選の前倒しを求める署名活動をしている山本拓・衆議院議員によれば、党所属の国会議員のうち82人が署名し、26人が口頭で賛意を伝えてきたという。

■「麻生続投」で総選挙に突入か

 新たな危機が発生するたびに、政府高官や自民党の重鎮が口を出す。今回も河村健夫官房長官は前倒し論を全面的に否定し、政府と党を弱体化させかねない動きだと非難した。

 安倍晋三元首相も、この時期の首相交代は国民から「姑息な手段」に見られる(その通りだと思う)として首相を擁護した。舛添要一・厚生労働大臣は「党の判断」として、前倒しの可能性を否定しなかった

 一連の発言によって麻生首相の気持ちが変わることはないだろうが、一日ごとに、一言ごとに自民党はさらなる深みにはまっている。党を泥沼から引き上げようと党幹部がもがいても、党内の深い亀裂が一段と印象づけられるだけだ。

 そして、麻生首相は相変わらず、心の平穏を得るために読書に走る(もっとも気分転換のための読書ではなさそうだが。麻生は6月21日に都内の書店を訪れ、祖父の足跡をたどった「吉田茂と昭和史」などを購入した)。

 結局、麻生降ろしの動きは自民党にダメージを与えるだけで、麻生続投のまま総選挙に突入する可能性が高い。自民党は日本どころか、党内さえもコントロールできないというイメージはますます強まるだろう。

プロフィール

トバイアス・ハリス

日本政治・東アジア研究者。06年〜07年まで民主党の浅尾慶一郎参院議員の私設秘書を務め、現在マサチューセッツ工科大学博士課程。日本政治や日米関係を中心に、ブログObserving Japanを執筆。ウォールストリート・ジャーナル紙(アジア版)やファー・イースタン・エコノミック・レビュー誌にも寄稿する気鋭の日本政治ウォッチャー。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

石破首相が退陣表明、米関税で区切り 複数の後任候補

ワールド

石破首相が辞任表明、米大統領令「一つの区切り」 総

ワールド

インドは中国に奪われず、トランプ氏が発言修正

ワールド

26年G20サミット、トランプ氏の米ゴルフ場で開催
MAGAZINE
特集:豪ワーホリ残酷物語
特集:豪ワーホリ残酷物語
2025年9月 9日号(9/ 2発売)

円安の日本から「出稼ぎ」に行く時代──オーストラリアで搾取される若者たちの実態は

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 5
    ロシア航空戦力の脆弱性が浮き彫りに...ウクライナ軍…
  • 6
    金価格が過去最高を更新、「異例の急騰」招いた要因…
  • 7
    「ディズニー映画そのまま...」まさかの動物の友情を…
  • 8
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 9
    今なぜ「腹斜筋」なのか?...ブルース・リーのような…
  • 10
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニングをする女性、異変を感じ、背後に「見えたモノ」にSNS震撼
  • 3
    眠らないと脳にゴミがたまる...「脳を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    50歳を過ぎても運動を続けるためには?...「動ける体…
  • 5
    【動画あり】9月初旬に複数の小惑星が地球に接近...…
  • 6
    「あのホラー映画が現実に...」カヤック中の男性に接…
  • 7
    「生きられない」と生後数日で手放された2本脚のダ…
  • 8
    「よく眠る人が長生き」は本当なのか?...「睡眠障害…
  • 9
    「稼げる」はずの豪ワーホリで搾取される日本人..給…
  • 10
    首を制する者が、筋トレを制す...見た目もパフォーマ…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 6
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 7
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...…
  • 8
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story