コラム

スーダン南部、独立後の国名も重要

2011年01月11日(火)17時39分

 国のブランディングに関する専門サイト「ネーション・ブランディング」のアンドレアス・マルケシニスは興味深い質問を投げかけている。今週にもスーダンから独立して誕生するはずの新しい国家が何という名前になるのか、だ。


 一つの可能性は「新スーダン」だが、この国名では、国際社会から「ならず者国家」と見なさている元のスーダンを連想させてしまうという反対意見も多い。何の影響力も持たない弱小新国家が、元のスーダンと新スーダンの違いを世界の人々にわからせるには長い歳月を要するだろう。

 世界には、いまだに韓国と北朝鮮を混同していて、どっちがならず者のほうだったかを思い出せない人もたくさんいるぐらいだ。スーダンという言葉を含むいかなる国名もマイナスのほうが多いのでは、と当事者たちは懸念する。

 同じ理由で、スーダン南部の人々のほとんどがやはり好きになれないのが「南スーダン」という国名だ。これでは、南スーダンはいまだにスーダンの南部地域を指すように見えて、独立国家として認識してもらえない恐れがある。

 もっとも一方には、スーダンという固有名詞を国名から失いたくないという人々もいる。彼らは、南スーダンの領土こそ本当の「スーダン」だと信じている。アラブ系イスラム教徒が多数派を占めるようになった北部はもはやスーダンではない。

「スーダン」という言葉はアラビア語の語源では「黒人の土地」を意味する。だから「スーダン」という名は、黒人より薄い茶色や白い肌の色をしているアラブ人が支配的な北部より、黒人が多い南部にふさわしいというのだ。


 

■今のスーダンは「虐殺」と同義語

 世界のメディアでこの地が「南スーダン」として定着していることを考えると、実際問題としては南スーダンに落ち着かざるを得ないのではないかと思う。

 だが、スーダンという言葉が近年では虐殺や飢餓と同義語になってしまったことを考えると、その名を捨てることのほうが国家ブランディングの立場から賢明そうだ。今のバングラデシュ人で、自分たちの国名が「東パキスタン」のほうがよかった、と思う人がいないのと同じだ。

 何より南スーダンは、旧仏領のコンゴ共和国と、旧ベルギー領ザイールが転じたコンゴ民主共和国のように、どっちがどっちか誰にも分からない紛らわしいネーミングは避けなければならない。

 ナイル川の名を取って、ナイル共和国というのも悪くないが、マルケシニスが指摘するように、ナイル川の名称を使うとエジプトがうるさい。

 大手タバコ会社のフィリップ・モリスがアルトリアに社名変更したのをまねて、いっそまったく無関係の名前をでっち上げてはどうか。新たなスタートを何より必要としている国家にとって、そう悪い考えではあるまい。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2011年01月7日(金)17時40分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 11/1/2011. © 2010 by The Washington Post

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story