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コラム
ForeignPolicy.com 外交エディター24時
カタールW杯なんて正気じゃない
(負け惜しみじゃなく!)
FIFAワールドカップの2018年と2022年の開催国が、それぞれロシアとカタールに決まった。世界のスポーツ界、サッカー界にとっては驚くべき結果だった。
なぜロシアとカタールなのか。
正直、ロシアはある意味理解できる。投票前から、ロシアとイングランドの2択と見られていた(実際には、過半数を得る国が出るまで最下位の国を除いて投票を続ける制度の下、イングランドが1回目の投票で落選したのは衝撃的だった。FIFAの理事独特の思考回路が示されたかたちだ)。
ロシアはまだ「サッカー途上国」といえるだろう。国内リーグのレベルは、スペインのリーガ・エスパニョーラやイタリアのセリエA、イングランドのプレミアリーグには遠く及ばない。だがヨーロッパの中で中間レベルにあることは間違いない。
さらにロシアではサッカー人気が高まりつつあり、大きな利益をもたらすサッカー市場が形成される潜在力もある。設備面でも、新設されたスタジアムや増設の候補地となりそうな場所が十分にある点は、誘致活動中からFIFAの目を引いていた。イングランドをはじめ落選した国々にとっては悲痛な結果だが、ロシアにはホスト国として大会を成功に導く力がある。
2022年の決定はもっと不可解だった。確かにカタールの提案には魅力的な点もあった。「中東初の開催」という謳い文句はプラスに働いたし、招致活動の中身も素晴らしかった。9カ所のスタジアムを新設して3カ所を改修、大会後にはこれらを途上国に譲渡すると約束。環境に配慮した大会にするとも誓った。
■練習はどこでするんだ
しかし、カタールにはFIFAの視察団による評価レポートで「高リスク」と判定された要因があった(ちなみに解せないのは、イングランドの招致活動は最高評価を受けていたのに、選ばれなかったこと。理事たちの収賄疑惑も数カ月前から渦巻いていた)。
FIFAにとってカタールの開催計画には、大きな懸念が2つあった。カタールは新設されるスタジアムには最新の空調設備を配し、プレーに適した環境を作ると主張していた。だが練習場所はどうするつもりなのか。12のスタジアムだけではまったく足りない。国全体をエアコン付きのドームで覆いでもしない限り、気温37度を上回る酷暑の中で大会を行うのは難しいだろう。
さらに開催地を争った国々に比べて、カタールには外国人が楽しめる娯楽が少ない。これでは多くのサッカーファンが現地観戦を見合わせるかもしれない。W杯の究極の目的は、世界中の人々がさまざまな違いを乗り越えて一体となり、共にサッカーを楽しむというもの。空っぽのスタジアムでは、そんな目的も果たせないだろう。
熱烈なアメリカ人サッカーファンである私としては、2022年は是非ともアメリカで開催してほしかった。アメリカが選ばれなかったからといって私のサッカー熱が冷めることはないが、国内の「にわか」ファンの場合は分からない。
94年のアメリカ大会以降、サッカー人気は急上昇している。今年の南アフリカ大会でも最もチケットが売れたのはホスト国以外ではアメリカだった。施設面でも、アメリカにはスタジアムが十分あり、開催地として申し分ない。国内リーグの歴史も15年になる。代表チームも近年は国際大会でそこそこの成績を収めるようになり、FIFAランキングだって現在24位だ。
■アメリカの巨大サッカー市場を見逃した
一方のカタールはFIFAランキング113位の国。サッカーの歴史も伝統もないし、W杯の出場経験もない。2010年W杯アジア地区予選でも、最終予選でグループ4位(5カ国中)に沈んだ。それなのに突然、開催国の名誉が転がり込んだのだ。
現時点で施設はまだほとんど整備されておらず、これからの建設作業を担うのは移民労働者だ。その労働において彼らの人権が十分に保障されるとは思えない。08年までカタールは米国務省の人身売買報告書で、世界で最悪の水準に位置付けられていた。
FIFAは、もっと実利に関わる間違いも犯した。サッカー人気が高まっているアメリカで、巨大なサッカー市場が生まれる可能性を見過ごしたのだ。アラブ世界ではサッカーはすでに人気スポーツであり、ファン拡大の余地はあまり残されていない。
2026年大会招致に意欲を見せていた中国という大きな市場も、これで2034年までお預けになった。カタールと同じアジアでの開催は、2大会間を開けないといけない決まりだからだ。
最後に、2010年の南アフリカ大会と2014年のブラジル大会に続いて、開催地決定のプロセスが疑問視される2大会を行うことにはリスクもある。ロシアとカタールでの開催までに何らかの問題が浮上すれば、イギリス人とアメリカ人は黙っていないだろう。「だから言ったじゃないか!」、と。
唯一の救いは、2026年か2030年の開催は絶対アメリカに違いない、ということだ。
──アンドルー・スウィフト
Reprinted with permission from FP Passport, 3/12/2010. © 2010 by The Washington Post Company.
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