コラム

ベトナム版フェースブックの致命的欠陥

2010年10月06日(水)15時46分

 独裁政権とインターネットの関係は常に愛憎入り混じったものだが、ベトナム共産党の一党独裁が続くベトナムの場合は今、愛に傾きつつある。国営の技術開発会社ベトナム・マルチメディアは最近、政府のウェブサイト「Go.vn(ベトナムへ行け)」をテスト公開した。昨年からフェースブックへの接続を遮断しているベトナム政府が自ら作った代替手段だ。

 Go.vnでは、自分のプロフィールを作り、写真をアップし、メッセージを交換し、楽曲を共有し、友達の輪を広げ、ニュースをフォローすることができる。本格バージョンも今年中には立ち上がる予定だ。

 だが、このベトナム政府版フェースブックには削除できない友達が一人いる。政府だ。ウォールストリート・ジャーナル紙は次のように伝える。


 欠点は、自分の本名と政府が発行する識別番号を登録しなければサイトを利用できないこと。一党独裁で反政府活動家は容赦ない弾圧を受けるベトナムでは、インターネット全体が治安当局の厳しい監視下にある。

 このサイトは、ベトナム共産党政治局が戦術を変更したことの表れだ。彼らの典型的なやり方といえば、反体制派のブロガーを沈黙させ、フェースブックへのアクセスを遮断して、ネット上で破壊思想が広がるのを防ぐことなのだから。


 ユーザー同士のつながりを勝手に公開して批判されたフェースブックのプライバシー侵害問題も、ベトナムの現状に比べればかわいいものだ。

■ウケなかったホー・チ・ミンの記事

 ウォールストリート紙によれば、ベトナムの情報通信相レー・ゾアン・ホップはこのサイトは外国のサイトとは違う「信用できる」選択肢であり、ベトナムのティーンエージャーにとって「文化と価値観と恩恵」にあふれているという。

 当初、ベトナム革命の英雄ホー・チ・ミンについての記事をアップしたがさっぱりアクセスがこないと見ると、英語学習のためのテストや、検閲済みのビデオゲームなどが追加された。ビデオゲームのなかには、「複数のプレーヤーが武装グループを使ってグローバル資本主義の拡大阻止のために戦う」ものも含まれているという。

 ホップは、今後5年間でベトナムの人口の約半分がこのサイトに登録すると予測する。だがベトナム人はそれほど興奮してはいないようだ。


 一部のベトナム人は、プロキシ・サーバーを使ったり自分のコンピューターの設定を変えることでフェースブックへのアクセス遮断をかいくぐる方法を見つけている。サイトの改訂で何とか国民の興味を引こうという政府の努力にもかかわらず、Go.vnのような官製サイトのボイコットをネット上で呼びかける運動も始まっている。あるネット・ユーザーはこう書き込んだ。「Go(政府)は失せろ」


──スザンヌ・マーケルソン
[米国東部時間2010年10月05日(火)16時07分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 6/10/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国への融資終了に具体的措置を、米財務長官がアジア

ビジネス

ベッセント長官、日韓との生産的な貿易協議を歓迎 米

ワールド

アングル:バングラ繊維産業、国内リサイクル能力向上

ワールド

ガザ支援搬入認めるようイスラエル首相に要請=トラン
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 3
    トランプ政権の悪評が直撃、各国がアメリカへの渡航勧告を強化
  • 4
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 5
    アメリカ鉄鋼産業の復活へ...鍵はトランプ関税ではな…
  • 6
    関税ショックのベトナムすらアメリカ寄りに...南シナ…
  • 7
    ロケット弾直撃で次々に爆発、ロシア軍ヘリ4機が「破…
  • 8
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 9
    ビザ取消1300人超──アメリカで留学生の「粛清」進む
  • 10
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?...「偽スーパーフード」に専門家が警鐘
  • 3
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 4
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    『職場の「困った人」をうまく動かす心理術』は必ず…
  • 8
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 9
    「100歳まで食・酒を楽しもう」肝機能が復活! 脂肪…
  • 10
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story