コラム

ユキオ、君は一体何者だったの

2010年06月03日(木)13時05分

passport060510.jpg

時間の無駄? 4月に鳩山が訪米したときは、オバマと非公式会談しかもてなかった
Pete Souza-The White House

 "Yukio, we hardly knew ye"──アメリカ人は、鳩山由紀夫に同情すべきなのだろうか。

 日本の鳩山首相は、就任後失態続きの挙げ句にたった8カ月で退陣し、やはり1年以内に退陣に追い込まれた安倍晋三、福田康夫、麻生太郎らと同じ不名誉リストに加わった。

 鳩山政治は、目を疑うほどの迷走続きだった。なかでも目立つのは、どっちつかずで何カ月も引っ張った米軍普天間飛行場の移設問題。結局鳩山は5月末、06年の日米合意に戻り、国民はまさかと思っていた沖縄県名護市辺野古への方針を決定した。

 日本政治研究者のトバイアス・ハリスが書いているように、「首相就任後の9カ月、彼は自ら選んだ閣僚の長としても、民主党の代表としても、日本の指導者としても失敗した。普天間問題では、ああでもないこうでもないと周囲を振り回した挙げ句、いちばん反対の大きい案を採用した。国民にはその選択肢のメリットも説明されなかった」

 これでは厳しい。

 米政府でも、鳩山のために涙を流す人はいなそうだ。ワシントンの究極の情報通アル・カメンは4月、ワシントン・ポスト紙のコラムで鳩山を「loopy(愚か者)」と酷評した。日本の平野博文官房長官からは「一国の首相に対し、いささか非礼だ」という哀れな抗議を、鳩山自身からは「私は愚かな総理かもしれない」と自虐的過ぎる切り返しを受けたが、このコラムは多くの米政府関係者の気持ちを代弁していた。

■日本を植民地のように扱った

 だが、アメリカの主要な同盟国に対する扱いとして適当だったと言えるだろうか。問題は、米メディアのなかに匿名の鳩山批判があふれていたことだけではない。4月の核安全保障サミットでは、オバマ大統領自らが日本を鼻であしらった。アルメニアやカザフスタン、マレーシアや南アフリカの首脳とは会うのに、日米首脳会談には時間を割かなかったのだ。

 昨年10月にロバート・ゲーツ国防長官が訪日したときは、彼は普天間問題に関して一歩も譲らないばかりか、鳩山のメンツを救う提案さえ出さなかった。ゲーツは日本に向かう機上で現行の日米政府間合意の履行を求め、「他に選択肢はない」と言い切った。アジアの戦略パラダイムを考え直すという鳩山の曖昧な話に耳を貸す忍耐はゲーツにはなく、日本のメディアはゲーツを激しく攻撃した。

 アメリカの外交官が鳩山を好きでなかったのは理解できる。彼はどう見ても、首相の器ではなかった。だが長い時間が経って鳩山が忘れ去られた後はどうなるか。多くの日本人は、日本がアメリカから植民地のような扱いを受けたことしか思いださないのではないか。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2010年06月02日(水)12時27分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 3/6/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:ドバイ「黄金の街」、金価格高騰で宝飾品需

ワールド

アングル:ミャンマー特殊詐欺拠点、衛星通信利用で「

ワールド

トランプ氏とゼレンスキー氏が「非常に生産的な」協議

ワールド

ローマ教皇の葬儀、20万人が最後の別れ トランプ氏
MAGAZINE
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
特集:独占取材 カンボジア国際詐欺
2025年4月29日号(4/22発売)

タイ・ミャンマーでの大摘発を経て焦点はカンボジアへ。政府と癒着した犯罪の巣窟に日本人の影

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは? いずれ中国共産党を脅かす可能性も
  • 4
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 5
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 6
    ロシア武器庫が爆発、巨大な火の玉が吹き上がる...ロ…
  • 7
    足の爪に発見した「異変」、実は「癌」だった...怪我…
  • 8
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 9
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 10
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 1
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 2
    「スケールが違う」天の川にそっくりな銀河、宇宙初期に発見される
  • 3
    【クイズ】「地球の肺」と呼ばれる場所はどこ?
  • 4
    「生はちみつ」と「純粋はちみつ」は何が違うのか?.…
  • 5
    女性職員を毎日「ランチに誘う」...90歳の男性ボラン…
  • 6
    教皇死去を喜ぶトランプ派議員「神の手が悪を打ち負…
  • 7
    自宅の天井から「謎の物体」が...「これは何?」と投…
  • 8
    トランプ政権はナチスと類似?――「独裁者はまず大学…
  • 9
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 10
    健康寿命は延ばせる...認知症「14のリスク要因」とは…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった...糖尿病を予防し、がんと闘う効果にも期待が
  • 3
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 4
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 5
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 6
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 7
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 8
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 9
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story