コラム

撃たれたタイの「赤い反乱将校」の素顔

2010年05月14日(金)17時42分

 タイでは、現政権の退陣を求める赤シャツ隊と政府の間で一触即発の緊迫した状況が続いているが、ついに収拾のつかない事態に陥ってしまったようだ。


 5月13日、国軍がバリケードに囲まれた反政府集団の占拠地の締め出しを計画するなか、政府側から反政府集団に寝返った将校が首都バンコクで銃撃された。撃たれたのはカティヤ・サワディポン陸軍少将(58)。「セー・デーン(赤い参謀)」という別名でも知られ、反政府運動の指導者的な人物だ。インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙との取材中に、1発の銃弾を頭部に受けたという。


 結論を急ぐ前に、ワシントン・タイムズ紙が掲載したカティヤの興味深いプロフィール記事を見てほしい。記事を読む限り、カティヤはごろつきのような人物に思える。CIA(米中央情報局)と共同で働いたことがあると主張し、タイ政府に対するテロ攻撃に関与したとの非難も受けている。


 カティヤ陸軍少将は2カ月にわたって政府とにらみ合いを続ける赤シャツ隊の有名人だ。抗議活動の参謀から広報官、コーチまでさまざまな役割を演じている。ベストセラー作家でもあり、テレビにも出演している。一方では、残忍な民兵組織のメンバーという顔を持ち、軍時代の部下を含め忠誠を誓う兵士たちを率いている。

 カティヤは「ローニン・ウォーリアーズ」と呼ばれる暗殺部隊に関する事情聴取のため、指名手配されている。同部隊は赤シャツ隊を支持する謎の組織で、軍や市街地を標的とした爆破攻撃を行ったと政府から名指しされている。部隊の名前の由来は、日本語で主人のいないサムライを意味する「浪人」だ。

 彼は4月10日夕方に行われたデモ隊と軍の衝突について「人々に対して戦車や装甲車両を使うなど、ホモの考えることだ」と語り、軍の行動を笑い飛ばした。「夜ではなく、朝か日中に戦うべきだ。しかし軍は、ホモ的な感情に従って行動している」

 08年にアヌポン・パオチンダ陸軍司令官からエアロビクスを教える担当を命じられた時には、こう発言している。「あるダンスを準備しておいた。『手榴弾投げダンス』というやつだ」


 彼のウェブサイトはこれ。カティヤは頭部ではなく胸を撃たれ、命は取り留めたが重傷を負ったとする報道もある。しかし、ある情報筋がAP通信に語ったところでは、彼はスナイパーに「頭を撃たれた」という。真相が明らかになるまで、当分は目が離せそうにない。

──ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2010年05月13日(木)9時33分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 13/5/2010. ©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は4日続伸も方向感出ず、米休場で手控えムー

ワールド

再び3割超の公債依存、「高市財政」で暗転 25年度

ビジネス

キヤノン、キヤノン電子に1株3650円でTOB 上

ワールド

米政権、「第三世界諸国」からの移民を恒久的に停止へ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 7
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story