コラム

ユーロ離脱は絵に描いた餅

2010年02月18日(木)17時14分

 

緊縮はイヤ EUによる支援と引き換えに予想される赤字削減要求に抗議するアテネ市民(2月11日)
Yiorgos Karahalis-Reuters
 

 ギリシャに、ユーロからの「一時休暇」を認めるべきだ──ハーバード大学のマーティン・フェルドスタイン教授(経済学)は2月16日の英フィナンシャル・タイムズ紙でこう主張した。ユーロから離脱できれば、通貨切り下げによって現在の厳しい経済状況から抜け出すことができるというのだ。

 いいアイデアだが、絵に描いた餅にも思える。カリフォルニア大学バークレー校のバリー・アイケングリーン教授(経済学)はその理由をこう説明する


 手続き的な障害の大きさを考えると、ユーロ離脱はほとんど不可能だ。自国通貨に復帰するには、賃金から預金、債券、住宅ローン、税金等を含むありとあらゆる契約を自国通貨建てに直さなければならない。民主主義国においてはこれは、徹底的な議論を要する問題だ。

 通貨の移行を円滑に進めるためには、周到な計画も必要だ。コンピューターのプログラムを書き換える。自動販売機を新通貨用に改造する。ユーロの流通開始に備えて行われた大々的な準備作業を思い起こせばわかる。


 そしてそれには、巨額の費用もかかる。ギリシャは負担したがらないかもしれない。

 簡単な計算をしてみよう。ユーロ圏がユーロ紙幣の流通を始めた02年、フランスの大手銀行BNPパリバはその移行費用を1600億〜1800億ユーロ(現在価値では1880億〜2120億ユーロ)と試算した。ギリシャの経済規模はユーロ圏全体の2.5%なので、ギリシャの通貨移行費用は47〜53億ユーロになる可能性がある。

 これなら、ギリシャでも払えるかもしれない。ギリシャ政府が今年中に借り換えようとしている借金530億ユーロに比べれば大した額ではない。

 だがこの推定費用には、企業や個人、銀行が負担することになる巨額の費用や、ユーロからギリシャ通貨への復帰を実現する政治的労力が入っていない。

 フェルドスタインのアイデアは素晴らしいが、やっぱり実現はしそうにない。

──アニー・ラウリー
[米国東部時間2010年02月17日(水)11時31分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 18/2/2010.© 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

香港、民主活動家ら6人指名手配 懸賞金も

ワールド

略奪でガザの食料供給機能不全、イスラエルの対策言明

ワールド

イラン、ワッツアップなどの禁止解除 ネット規制緩和

ワールド

アメリカン航空が米国で全便運航停止、約1時間後に解
MAGAZINE
特集:ISSUES 2025
特集:ISSUES 2025
2024年12月31日/2025年1月 7日号(12/24発売)

トランプ2.0/中東&ウクライナ戦争/米経済/中国経済/AI......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシアの都市カザンを自爆攻撃
  • 3
    「腹の底から笑った!」ママの「アダルト」なクリスマストイが「誇り高く立っている」と話題
  • 4
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 5
    「自由に生きたかった」アルミ缶を売り、生計を立て…
  • 6
    強烈な炎を吐くウクライナ「新型ドローン兵器」、ロ…
  • 7
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が…
  • 8
    ウクライナ前線での試験運用にも成功、戦争を変える…
  • 9
    「オメガ3脂肪酸」と「葉物野菜」で腸内環境を改善..…
  • 10
    日本製鉄、USスチール買収案でバイデン大統領が「不…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──ゼレンスキー
  • 4
    おやつをやめずに食生活を改善できる?...和田秀樹医…
  • 5
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
  • 6
    9割が生活保護...日雇い労働者の街ではなくなった山…
  • 7
    ウクライナの逆襲!国境から1000キロ以上離れたロシ…
  • 8
    【駐日ジョージア大使・特別寄稿】ジョージアでは今、…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    トランプ、ウクライナ支援継続で「戦況逆転」の可能…
  • 1
    大腸がんの原因になる食品とは?...がん治療に革命をもたらす可能性も【最新研究】
  • 2
    インスタント食品が招く「静かな健康危機」...研究が明らかにした現実
  • 3
    ロシア兵「そそくさとシリア脱出」...ロシアのプレゼンス維持はもはや困難か?
  • 4
    半年で約486万人の旅人「遊女の数は1000人」にも達し…
  • 5
    ロシア軍は戦死した北朝鮮兵の「顔を焼いている」──…
  • 6
    「炭水化物の制限」は健康に問題ないですか?...和田…
  • 7
    ミサイル落下、大爆発の衝撃シーン...ロシアの自走式…
  • 8
    コーヒーを飲むと腸内細菌が育つ...なにを飲み食いす…
  • 9
    2年半の捕虜生活を終えたウクライナ兵を待っていた、…
  • 10
    村上春樹、「ぼく」の自分探しの旅は終着点に到達し…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story