コラム

ロシア共産党:『アバター』を禁止せよ

2010年01月13日(水)17時17分

 ジェームズ・キャメロン監督のメガヒットSF超大作『アバター』は、アメリカの海兵隊を悪者扱いしたとして米タカ派を激怒させている。また白人のアメリカ人が先住民族を帝国主義者の略奪から守る物語なんて、恥知らずにも程があるという批判もある。だがこれまでで最もユニークな批判は何といっても、ロシア共産党からのものだろう。


 サンクトペテルブルクのロシア共産党は最近の声明で、このSF大作はバラク・オバマ米大統領のノーベル平和賞受賞を正当化しようとして失敗した、と主張した。失敗した理由は、作品に登場する海兵隊員が誰一人として正義に見えないからだという(彼らに言わせれば海兵隊は、イラクやユーゴスラビア、アフガニスタン、ハイチ、ソマリアでの殺人者で迫害者だ)。

 『アバター』の製作が始まったのは4年前で、もちろんオバマは大統領にもなっていない。

「衛星パンドラの先住民解放運動の闘士が、米国防総省が作り出したミュータントの言い分を信じるなんて片腹痛い」と、同共産党は言う。

「注意深く隠されてはいるが、キャメロンの略奪的な本性はすぐ明らかになる。作品の中ではベネズエラはすでに侵攻されウゴ・チャベス大統領は殺された後。米兵は大挙して太陽系を侵略し、後には焼け野原しか残らない」

「登場人物は、悪者の共和党員(元海兵隊の大佐で入植地の指導者)と正義の民主党員(主人公の元海兵隊員ジェイク・サリーとシガニー・ウィーバー演じる植物学者)に一応分けられた上で、物語は常軌を逸した展開を迎える。正義の味方は、人類ではなく地球外文明のために戦うのだ」

 共産党は声明の最後でこう要求する。「キャメロンがB級ヒット映画を作るためにソ連のSFから盗作していることを認めるまでは、彼のすべての作品の上映を禁じるべきだ」


 サンクトペテルブルク共産党のウェブサイトKPLOは、衛星パンドラは60年代のソ連のSF小説からの剽窃だと主張している。

 ロシア情報サイトのRTによれば、「サンクトペテルブルクとレニングラード地域の共産党は、国内外のあらゆる重要事件に対する奇抜な反応で知られており」、それが映画に及ぶのもこれが初めてではない。2年前には、彼らは「ソ連人民の敵」とねんごろになったウクライナの女優オルガ・キュリレンコを攻撃した。その敵とは、ジェームズ・ボンドだ。

──ジョシュア・キーティング
[米国東部時間2010年01月12日(火)12時33分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 13/1/2010. © 2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

プロフィール

ForeignPolicy.com

国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

オランダ政府、ネクスペリアへの管理措置を停止 対中

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

ウクライナに大規模夜間攻撃、19人死亡・66人負傷

ワールド

中国、日本産水産物を事実上輸入停止か 高市首相発言
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影風景がSNSで話題に、「再現度が高すぎる」とファン興奮
  • 4
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 5
    マイケル・J・フォックスが新著で初めて語る、40年目…
  • 6
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 7
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 8
    「これは侮辱だ」ディズニー、生成AI使用の「衝撃宣…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    報じられなかった中国人の「美談」
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story