コラム

『2012』の設定は国際政治的に無理

2009年11月25日(水)18時54分

G8が地球を救う? 『2012』は11月21日より日本公開
(配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント)

 先週末、妻の賢明な意見を無視して、映画『2012』を見に行った。感想は、映画ファンや批評家とほぼ同じ。野心的な大作だがストーリーは荒唐無稽。CGを駆使した映像は圧倒的だった。

(*この先はネタばれ注意!)
 ばかげたエピソードのオンパレードなのは言うまでもない。地球滅亡の危機なんて情報を、ひと握りの人間の間で秘密にしておくという発想自体ありえない。しかし私がこの映画の致命的な欠陥だと感じた部分は、まだ誰にも指摘されていないようだ。

 それは世界的な統治体制の捉え方だ。地球最後の日に備える計画協議の場として、いまや瀕死のG8(主要8カ国)を選ぶなんてどうかしている。しかもダニー・グローバー演じるアメリカ大統領が頼りにするのは、思慮深いロシア大統領とイタリア首相ときている。

 G8の計画に従って、いざ地球が崩壊したときに「選ばれし人々」を乗せる巨大船が建設される。船を作り、保管するのは中国だが、同国はG8のメンバーではない。つまり世界人口の5分の1を占めているにもかかわらず、地球滅亡に備える協議の場に参加できないのだ。

■インドも中国も救済計画の蚊帳の外

 そしてインド。ありえない話だが、この映画では太陽から放出されるニュートリノの量が急増して地球の核を不安定にし、地震や津波を招くという設定になっている。危機的な状況に気づいたインド人科学者は、自分の発見をアメリカ人の友人に惜しげなく伝える。

 なのに、いざ地球の崩壊が始まると、誰もこの科学者と彼の家族を救いに来ない。それどころか観客は、科学者が予期せぬ洪水のスピードをアメリカ人の友人に伝えてから、大津波に襲われるシーンを見せられる。

 インドも世界人口のおよそ5分の1を占めるが、G8のメンバーではない。だから巨大船の使い方をめぐる協議にも参加しなかったようだ。

 映画の設定をめぐる批判はさておき、皆さんに聞きたい。人類滅亡の日に向けた対策を練る秘密協議の場にふさわしいのは? 20ヵ国・地域(G20)首脳会議か、国連安全保障理事会か。P5プラス1(安保理常任理事国とドイツ)か、あるいはEU3プラス3(英仏独米露中)だろうか。

――ブレイク・ハウンシェル
[米国東部時間2009年11月24日(火)08時50分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 25/11/2009.  
©2009 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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