コラム

尖閣問題を解決する激辛アイデア

2010年09月27日(月)07時05分

今週のコラムニスト:李小牧

 中国と台湾が釣魚島、日本が尖閣諸島と呼ぶ小島をめぐって、わが中国と日本が大もめにもめている。逮捕された中国人船長が釈放されても中国政府の怒りは収まらず、日本人も自国政府の対応を大いに不満に思っている。結局問題は何も解決されていない。

 今回の事件は日本人にとって、バカな中国人船長が海上保安庁の船に自分の漁船をぶつけてきたあり得ない事態、と見えていたはずだ。自分からぶつかってきたくせに、釈放しろとはなんてずうずうしい国だ――そう思っていたに違いない。

 その見方はあまりに表面的過ぎる。中国の国内事情と中国人の感情はもっと複雑だ。

 そもそも事件のきっかけは、8月末に日本の新聞が「日本政府が尖閣諸島を含む離島を国有化する」という記事を載せたことにある。内容が本当かどうか私には分からないが、記事は中国で大きく伝えられた。怒った漁船の船長が巡視艇に自分の船をぶつけたからと言って逮捕するのは、まるで目の前にカネが入った財布を置いておいて、それを盗んだといって捕まえるようなものだ。

 それに中国人は今回の事件を「小さな中国の漁船が大きな日本の軍艦にいじめられている」というイメージで捉えている。中国人の大半に海上保安庁と海上自衛隊の区別はついていないからだ。漁船が国家機関の船にぶつかってそもそも勝てるわけがなく、それを逮捕するのは行き過ぎだ、というわけである。

■1000隻の中国船が尖閣諸島に?!

 毒ギョーザ事件のときにもこのコラムに書いたが、日本人は本当にケンカが下手だ。手元にあるカードを徐々に使っていけばいいものを、いきなりすべての手を相手にさらし、極端から極端に走ってしまう。今回もいきなり逮捕したと思ったら、中国政府の「圧力」に驚いて突然釈放する、という外国人の私から見ても恥ずかしい対応で世界に恥をさらしてしまった。

 中国政府は日本に謝罪と賠償を請求しているが、彼らは既に事件を何とか平穏に終わらせようとしている。船長が帰国した25日の夜に放送されたCCTV(中国中央電視台)の全国ニュース番組『新聞聯播』を見たが、この事件が報道されたのは放送が始まってからようやく20分経ったころ。中国政府が国内を沈静化させ、日本と対話できる雰囲気をつくろうとしているのは間違いない。

 今回の事件が終わっても、この問題が根本的に解決されなければまた同じような事件が起きるだろう。日本人は知らないだろうが、来年6月17日に世界中の中国人が1000隻の船に乗って尖閣諸島に繰り出す計画がある。これに対して日本の海上自衛隊が出動すればまさに戦争だ。

 鄧小平は日中平和友好条約を締結した1978年、尖閣問題について「次の世代はわれわれよりもっと知恵がある。みなが受け入れられるいい解決法を見出せるだろう」と言った。ならばわが改革開放の総設計士の期待に応えて、歌舞伎町でヤクザと「シマ」問題をめぐるトラブルを解決してきた李小牧が最高のやり方を提示しよう。

 その解決法とは「尖閣諸島と北方領土の交換」である。意味が分からない? では分かるように説明しよう。尖閣諸島を中国に売り、その代金でロシアから北方領土を買うのである。

■尖閣諸島の「みかじめ料」を要求せよ

 知り合いの右翼に怒られるかもしれない(笑)。ただ戦争に負けたロシアから日本が北方領土を取り戻すメドがまったく立たないのは、誰が見てもはっきりしている。アラスカがロシアからアメリカに売却された歴史を見ても分かるとおり、昔は国と国との間で土地を売り買いするのは当たり前だった。どうしても中国が釣魚島を欲しいのなら、売ればいいだけのこと。イラクと同じぐらいの量の石油資源が埋蔵されているなら、それ相応の値段を付ければいい。

「釣魚島は自国の領土だ」と主張している中国は買い渋るかもしれない。そのときは「100年間の管理費」名目でカネを受け取ればいい。言ってみれば「みかじめ料」のようなもの(笑)。たとえ中国が買っても、ロシアが北方領土を売ってくれない場合もあり得るが、それでも構わない。受け取った代金は日本政府の巨額の借金返済に充てればいい!

 今年の夏のあまりの暑さで頭がおかしくなったわけではない。こじれにこじれた問題を解決するためには、これくらい思い切った頭の切り替えも必要。あまり深く考え込まず、気楽に考えたほうが時にはいい答えが出るものだ。

 領有権の問題が解決しなくても、トラブルを減らす方法が1つある。あの小島の名前を中国と日本の友好を象徴する李小牧にちなみ、「小牧島」にするのだ!「シマ専門家」の私が言うのだから間違いない(笑)。

プロフィール

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・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
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・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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