コラム

入学式での「君が代」とランドセル

2010年04月27日(火)18時16分

今週のコラムニスト:コン・ヨンソク

 この4月に息子が小学校に入学した。やはり入学式と桜の「ひらひら」はよく似合う。

 久しぶりの小学校はいいものだ。タイプスリップしたかのように、昔の記憶が鮮やかに甦る。僕が最初に日本の小学校に入ったのは2年の冬。当時の小学生たちは、「韓国」を知らなかった。当時、カンボジア、ベトナムからの難民のニュースがあったせいか、僕は当初「難民」だと思われていた。

 自分だけ名前が違うことや、カタナカ表記で黒板に書かれることがとても嫌だった。だけど、渡された息子のクラスメートの名前を見ると目を見張った。今時のこどもたちの名前は、宝塚かマンガの主人公のようなカッコイイ名前が多いのだ。漢字の読み方も自由なので、韓国語読みにしている息子の名前も別に目立たなくて一安心だ。しかも、クラスには息子も含めて3人も外国人風の名前がある。いい時代になったものだ。

 だが入学式が始まるとそんな感傷は見事に吹き飛ばされ、現実を見せ付けられた。国歌斉唱の後、校長先生をはじめ来賓の教育委員など、檀上に上がる人たちは一様に、日の丸に敬礼をしていたのだ。さすがに6年生はしていなかったのでほっとしたが。

 僕が小学校を通っていて一番つらい時間は、君が代を歌う場面だった。僕は歌うことはしない。しかし、周囲に気づかれるのもいやだ。だからといって口パクをしているのは、何だかプライドが許さない。生まれてすぐに日本に来た息子はどのように対処するのだろうか。

 韓国で小学生に、独立記念館の展示を見させることはよくないという話をよくきく。僕もその通りだと思う。そして、小学生に国旗や国歌を強要することもまた、同じ論理からおかしいと思う。

 しかし、韓国のあり方を批判する人たちは、日本で日の丸・君が代を拒否する人たちを非国民、反日だと罵倒する。だから、彼らの言うことは信頼できない。どうして、筋を通す嫌韓派は少ないのだろうか?

■日本の画一性は子供の可能性を奪う

 もちろん新入生には、国歌斉唱や日の丸への敬礼の意味がわかるはずもない。だが義務教育の本質は、そのことの意味を理解し将来同じようにするように育て上げることだろう。ずばり、「メイキング日本国民」プロジェクトだ。もちろん、校長先生の「ともだちをたくさんつくってください」という言葉は真心だと信じたいが。

 実は僕にとって、息子を日本の小学校に通わせることは、一大決心でもあった。韓国人という異質な存在としての適応問題もあるが、僕が一番懸念しているのは、画一性だ。一から十まであまりに、規格化されているということ。個性を伸ばすよりも、同じような人間、規則を守る、上から言いなりになる人間に育てることにおいては、日本は世界一だ。

 しかし、スノボーの国母選手に思わずエールを送りたくなる僕は、そんな日本の画一性がどうも気に入らない。日本人の可能性を奪っているように思えてならない。

 それでも息子はピカピカのランドセルを肩に背負い元気に学校に通っている。ランドセルほど日本文化を的確に象徴しているものもないだろう。今でも使われている「ピカピカの1年生」という言葉も多分にランドセルを意識した言葉だろう。

 ランドセルは僕にとって日本文化の洗礼そのものだった。当時の韓国では小学生のカバンは定まったものがなく、それぞれ思い思いのカバンをもっていた。それが日本では、一様にランドセルと決まっているのだ。しかもなぜか横文字だ。さすが西洋化された先進国日本というわけだ。

 ランドセルなんて知らない僕の両親はデパートで適当に買ってきたが、これが失敗だった。友達のものとは違って、サイズも小さめで皮もふにゃふにゃ。ただでさえ難民扱いなのに、僕はずっとそれがコンプレックスになり、卒業と同時にランドセルを捨てた。

■ランドセルは世代をつなぐアイテム

 それにしても日本におけるランドセルの普及と、それに対する異議申し立てが出ないことはある意味すごい。北は北海道、南は沖縄の離島、最近話題の徳之島でも、小学生は一様にランドセルを背負っている。息子の小学校の教室には、あらかじめランドセルサイズに個人棚が定められている。ランドセルでなくてはならないというきまりはどこにも書いていないのに、ランドセル以外ではダメなようになっている。暗黙の了解と空気を読むことが求められる実に日本らしい。

 誤解しないでほしいが、ランドセル自体は素晴らしい文化だと思う。時代が激変し、世代間ギャップが深刻化するなか、ランドセルは祖父母から孫、そして未来の世代までをつなぐほとんど唯一のアイテムだ。だが、選択の自由が尊重され、多様性が認められる社会はもっと素晴らしいだろう。

 デザインや機能性も優れている。お気に入りのランドセルをネットでみつけ、注文して到着したときの息子の喜び様は半端じゃなかった。「今すぐにも、小学校に行きたい」と言い出すほどだった。ネットで調べてみると、韓国でもにわかにランドセル人気が高まっているらしい。息子を韓国に逆留学させるときや、在外研究でアメリカに行った際にも、息子にはランドセルを背負わせるつもりだ。

 僕の小学校の卒業式の読み上げ大会、僕に割り当てられたフレーズは「肩に重かったランドセル」だった。息子はその小さな肩にこれからどんな荷物を背負うことになるのだろう。勉強に競争だけでなく、日の丸、君が代、そして、日本語ではなく「国語」と呼ばれる学校で・・・。でも大丈夫。きっと「天使の羽」が守ってくれるはずだから。

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

PEのクアンタム、ルクオイル海外資産に入札 シェブ

ビジネス

ユーロ圏消費者物価、12月2%に減速 ECB目標と

ワールド

ウクライナ高官、「国益守られる」と評価 有志国会合

ビジネス

独失業者数、12月は予想下回る増加 失業率6.3%
MAGAZINE
特集:AI兵士の新しい戦争
特集:AI兵士の新しい戦争
2026年1月13日号(1/ 6発売)

ヒューマノイド・ロボット「ファントムMK1」がアメリカの戦場と戦争をこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    日本も他人事じゃない? デジタル先進国デンマークが「手紙配達」をやめた理由
  • 4
    「見ないで!」お風呂に閉じこもる姉妹...警告を無視…
  • 5
    トランプがベネズエラで大幅に書き換えた「モンロー…
  • 6
    「悪夢だ...」バリ島のホテルのトイレで「まさかの事…
  • 7
    「グリーンランドにはロシアと中国の船がうじゃうじ…
  • 8
    若者の17%が就職できない?...中国の最新統計が示し…
  • 9
    マドゥロ拘束作戦で暗躍した偵察機「RQ-170」...米空…
  • 10
    衛星画像で見る「消し炭」の軍事施設...ベネズエラで…
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 3
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 4
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 5
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 6
    眠る筋力を覚醒させる技術「ブレーシング」とは?...…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 9
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 10
    アメリカ、中国に台湾圧力停止を求める
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 8
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story