コラム

ヤマダ電機は歌舞伎町を救う

2010年02月22日(月)10時10分

今週のコラムニスト:李小牧

 わが新宿・歌舞伎町一番街の目の前に最近、黒い楕円形の巨大ビルが完成した。欲望の街、歌舞伎町を見下ろす9階建てのこの現代的な建築物が、いま話題の「ヤマダ電機歌舞伎町店」(正式名称はLABI新宿東口館)である。

「夜の街である歌舞伎町に昼間の大型店ができても意味はない」とか、「飲食店の客がヤマダ電機に吸い取られる」という意見も耳に入ってくる。店のオーナーの中には街が変わることに不安を感じている人もいるだろう。

 心配はいらない。いや、むしろ安心していい。ヤマダ電機は歌舞伎町が復活するきっかけになる。

 最近、特に昼間の歌舞伎町に来た人は分かると思うが、この街を訪れる客に中国人が占める割合は日ごとに増えている。「歌舞伎町」の名前は、中国人の間に日本人が思っているよりずっと浸透している。

 中国人にとって日本イコール富士山、日本イコール歌舞伎町、なのである。彼らは日本に着いてから、皇居を訪れて銀座で買い物をして歌舞伎町で遊んで富士山を見に行って北海道に飛ぶ――と、まさに「弾丸」のようにツアーの日程をこなす。

 歌舞伎町で買い物、食事、風俗という「一条龍服務(サービスのフルコース)」を提供できれば、歌舞伎町に来る中国人観光客はますます増えるはずだ。パパがストリップを見に行っている間、ママと子供がヤマダ電機でお買い物、というパターンの観光だってあり得る(笑)。

■「日本家電」の実力を思い出せ

「日本一安い」大型電器店というのも中国人にとって魅力である。彼らは性能のいい日本の電気製品を求めて秋葉原にも行くが、「店がたくさんあり過ぎて、どこに行ったらいいか分からない」という不満をよく聞く。銀座も同じ理由で中国人観光客の人気が下がり始めている。

 日本人は忘れかけているようだが、電気製品は自動車と並んで世界に誇れる日本の「文化」である。ヤマダ電機は、歌舞伎町に来た外国人観光客に日本文化を紹介する博物館になる。

 当然、電気製品が好きな日本の若者も集まる。そうすれば街は一気に活性化する。ここに歌舞伎町再生のチャンスがある。

 かつて歌舞伎町は暴力と風俗の街として世界に名を売った。暴力を排除して危ないイメージが減ったのはいいが、今度は街全体がおとなしくなった印象が広がってしまった。

 歌舞伎町は風俗産業をもっと肯定的に捉え、街の中心に据えていい。ヤマダ電機の出店と風俗再生によって、歌舞伎町をヤクザを除いた「何でもありの街」に戻すのだ。

 以前は中国人も風俗を白い目で見るようなところがあったが、最近は彼らのほうが日本人よりオープンである。共産党の地方幹部が堂々と歌舞伎町に視察に来るぐらいだ。

 それにヤマダ電機に来る若者は元気(!)である。歌舞伎町の各店は、ヤマダ電機の客を全部呼び込む気持ちで開店に備えたほうがいい。

■中国人の日本ニーズはまだまだある

 4月のオープンを前に、ヤマダ電機の一宮忠男社長にお願いとアドバイスをしたい。計画では夜10時までとなっている営業時間を、24時間とは言わないがもう少し延長してほしい。何と言っても歌舞伎町は夜の街である。

 中国人がよく使うデビットカード「銀聯カード」はもちろん店で使えると思うが、できれば時計やアクセサリーといった高級品も置いたほうがいい。中国人は「一条龍服務」が好きだから、どんどんお金を使うはずだ。ご要望があれば、李小牧と歌舞伎町案内人軍団が中国人観光客の買い物ガイドをお引き受けする(笑)。

 今や中国人の海外旅行客は年間4600万人に上る。その2%にあたる100万人しか日本に来ていないと言われるが、彼らの大半が訪れるのは香港・マカオ。日本を避けてアメリカやヨーロッパに行っているわけではない。今のところ同じアジアの韓国やベトナム、タイがライバルだが、実際に訪れた観光客の満足度は日本が一番というデータもある。

 今年の夏、私の著書の中国語版全集が上海の出版社から出ることになっている。中国のネットで公開しているデビュー作『歌舞伎町案内人』のアクセス数は1億を超える。それもこれも日本への関心ゆえだ。

 これからも李小牧はどんどん日本と歌舞伎町を中国に宣伝していく。こんなに頑張っているのだから、そのうち新宿区の中山弘子区長から感謝状がもらえるかもしれない。本当にほしいのはバックチャージだけど!(笑)

プロフィール

東京に住む外国人によるリレーコラム

・マーティ・フリードマン(ミュージシャン)
・マイケル・プロンコ(明治学院大学教授)
・李小牧(歌舞伎町案内人)
・クォン・ヨンソク(一橋大学准教授)
・レジス・アルノー(仏フィガロ紙記者)
・ジャレド・ブレイタマン(デザイン人類学者)
・アズビー・ブラウン(金沢工業大学准教授)
・コリン・ジョイス(フリージャーナリスト)
・ジェームズ・ファーラー(上智大学教授)

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