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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
安倍政権のバラマキ政策が日本経済を救う唯一のシナリオ
きょう決まった「緊急経済対策」で、安倍政権は事業規模で20兆円の補正予算を打ち出した。9日に開かれた経済財政諮問会議では、安倍首相が日本銀行に2%の物価上昇率目標を設定するよう求め、日銀は21日の金融政策決定会合で目標を設定する方針と伝えられている。これを受けて円安・株高が加速し、市場は「安倍バブル」にわいているが、これで本当に日本経済は回復するのだろうか。簡単なシミュレーションをしてみよう。
まず2%のインフレを起こすには、日銀は何をする必要があるだろうか。次の図は日銀の通貨供給(マネタリーベース)と消費者物価の動きだが、ここ30年間で物価上昇率が2%を超えたのは1980年代の前半と1990年前後だけで、2000年代はほぼゼロである。日銀が2002年から通貨供給を激増させた量的緩和にも、2010年以降の包括緩和にも、物価はまったく反応しなかった。
マネタリーベース(赤)と消費者物価(青)の前年比増加率(%)日銀・総務省調べ
こうしたデータから考えると、金融政策だけで2%のインフレを起こすためには、過去の金融緩和をはるかに上回る通貨供給が必要だろう。といっても金利がゼロなので、銀行が日銀に預けている準備預金を積み増す「狭義の量的緩和」はきかない。長期国債などを買って、通貨が市中に出て行くことが必要だ。日銀の保有する国債残高は100兆円を超えたが、少なくとも200兆円以上にする必要があるだろう。
これによって市場に大量の通貨が供給されるが、それだけでは何も起こらない。企業の資金需要が飽和しているので、余った資金は為替投機(ドル買い)などに使われるだけだろう。これもかつての量的緩和で起こったことだ。ゼロ金利の円を借りて米ドルを買う「円キャリートレード」が増えて、アメリカの住宅バブルの原因になった。
余った資金を使うためには、財政支出が必要だ。補正予算で政府が需要を作り出せば、日銀の供給する資金は確実に使われ、GDP(国内総生産)は2%上がる・・・と安倍首相は記者会見で説明したが、この説明はおかしくないだろうか。財政政策でGDPが上がるなら、すでに金余りなのだから金融緩和は必要ないのではないか?
実はゼロ金利で有効なマクロ経済政策は、ケインズ的な財政出動しかない。それだけだとまた「バラマキだ」と批判を浴びるので、政府は「国土強靱化」とかインフレ目標とか目先を変えているのだ。正味の効果は、この財政支出が何をもたらすかということだが、それは昔の安倍政権や麻生政権で実証ずみである。政府債務が増える効果だけは確実だが、GDPはゼロ成長で、デフレも変わらなかった。
ただ今回の経済対策が、かつての自民党政権と違うのは、財政破綻のリスクが一段と切迫している点だ。崖に向かって転がり落ちてゆく車のアクセルを吹かしたら何が起こるかは、誰でもわかる。あと数年で、国債は国内で消化できなくなるだろう。今すぐ何かが起こることはないだろうが、そのうち長期金利が上がり始めたら日銀が止めることはできない。今回の大盤振る舞いが破綻を早めることは間違いない。
その先に起こることも、だいたい予想がつく。財政が債務不履行になれば「リセット」できるが、そうはならないで日銀が国債を引き受け、大量に通貨を発行するだろう。それによって激しいインフレが起き、国債が暴落して、今のユーロ圏のように銀行が大量に破綻するだろう。しかもドイツという「深いポケット」のあるヨーロッパとは違って、日本は財政が破綻するので銀行を救済する資金がない。最終的には、IMF(国際通貨基金)の支援を求める必要が出てくるかも知れない。
それが日本が立ち直る唯一の可能性である。1997年のアジア通貨危機でIMFに資金援助をあおいだ韓国では、IMFが緊縮財政を要求して財閥を解体した。韓国は大不況になったが、失業した若者が起業し、財閥が生まれ変わってサムスンのように変身した。明治維新でも敗戦でも、日本を変えたのは外圧だった。安倍政権のバラマキ政策は、内側から変わることのできない日本を変える「第三の外圧」を早めようという深謀遠慮なのかもしれない。
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