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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
史上最大の公共事業「除染」は税金を浪費する「霊感商法」だ
福島第一原発事故の被災地で、自衛隊による除染作業が始まった。陸上自衛隊は7日から隊員計約900人を動員し、警戒区域や計画的避難区域で2週間かけて路面の洗浄や汚泥の除去などを行う。来年1月からは、民間業者を使って本格的な除染作業が始まる。
並行して各自治体でも除染の準備作業が始まっているが、そのやり方はばらばらだ。11月に閣議決定された除染特別措置法では「事故による追加被ばく線量が年間1ミリシーベルト以下となることを目指す」という基準が設けられたが、この基準で本当に除染作業を始めると、膨大な地域が除染対象になるからだ。
追加線量が年間1ミリシーベルトということは、全国平均の自然放射線量1.5ミリシーベルトと合計して2.5ミリシーベルト。これは毎時0.28マイクロシーベルトだが、図のように毎時0.2マイクロシーベルト以上の線量を観測した地域は5000平方キロメートル以上ある。過去の除染の例としては、イタイイタイ病のときのカドミウムの除染があるが、これは1600ヘクタールで8000億円かかった。同じ単価(5億円/ヘクタール)がかかるとすると、今回は1割の地域を除染するだけで25兆円以上かかることになる。史上最大の公共事業である。
文部科学省の航空機モニタリングによる空間線量(今年9月)クリックで拡大
もちろん現実には、そんな大規模な土木工事は不可能なので、国は除染作業の全体像を示さない。一部の自治体では「国の基準では心配だ」という住民の声に押されて、年間1ミリシーベルトを基準で除染を始めている。しかしこれは毎時0.11マイクロシーベルトだから、図からもわかるように福島県全域を除染することになる。おまけに除染で発生する膨大な土をどこに移動するのかというあてもないので、現実には部分的に洗浄するとか枝打ちするなどの方法でやるしかない。
そんな作業が本当に必要なのだろうか。チェルノブイリ原発の事故では、汚染された地域はそのまま放棄された。津波の被災地では海岸部から高台に移住することが勧告されているので、少なくとも海岸部には、無理に帰宅する必要はないだろう。福島県の平均地価は2億円/ヘクタールなので、東京電力が買収することも一案だ。しかし地元では「帰宅したい」という要望が強いという。
最大の問題は、除染によって何が解決するのかということだ。広島・長崎などの被爆者のデータで放射線の健康への影響はくわしくわかっているが、年間100ミリシーベルト以下では発癌性の増加はみられない。これは毎時11マイクロシーベルトだが、これだと図のように原発の北西部の赤と橙の部分だけで、山間部を除くと数百ヘクタールだから、東電がすべて買収しても数百億円ですむ。数十兆円の除染よりはるかに経済的である。
微量放射線の影響については議論があるが、健康に影響があるとしても数十ミリシーベルト以上であり、1ミリシーベルト程度で健康被害が出ることはありえない。このような無意味な除染を行なうのは、「安心」の名による税金の浪費である。その費用は最終的には汚染源である東電に請求されるので、首都圏の電力利用者に転嫁され、東電の経営が破綻したら納税者が負担することになる。
安心を求める人々が自己負担で除染を行なうのは自由だが、行政が科学的根拠のない「霊感商法」を行なうべきではない。被災地には全国から土建業者が集まって「復興景気」にわいているが、このように税金を浪費する余裕は、今の日本の財政にはない。除染に税金を使うのはやめ、本当に被害の出ている津波の被災地の救援を優先すべきである。
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