コラム

予算の「仕分け」は予算委員会で

2010年04月29日(木)18時52分

 行政刷新会議の事業仕分けの第2弾が、4月23日から4日間にわたって行なわれた。私も「ニコニコ動画」で討論に参加するなどして内容を見ていたが、会場は昨年以上の盛況で、入りきれない観客の行列ができるほどだった。昨年は私も仕分けの会場で見たが、率直にいってずっと見ていておもしろいものではない。それがすべてネット中継され、延べ数十万人が見るという変化のほうに政治の変化の兆しを感じた。

 しかし枝野幸男行政刷新担当相もいうように、これはほんらい国家戦略局の立案する戦略と一体であるべきだ。まだその国家戦略もない状態では、何が重要で何が切るべき事業かという優先順位が決まっていないので、「JAXA(宇宙航空研究開発機構)の広報機関(年間予算1億円)が丸の内にあるのはおかしい」といった、誰の目にも明らかな無駄を切る作業に終始してしまう。今回の仕分けの対象になったのは独立行政法人という枝葉で、幹である一般会計は史上最大規模に膨張し、無駄はむしろ増えている。

 財務省の資料を見れば明らかなように、一般歳出の中で最大の費目は社会保障で、一般会計の29.5%を占める。増加率も9.8%とトップで、高齢化によって今後さらに増えることは確実だ。社会保障を削減しないかぎり、大きな無駄は切れないのである。ところが民主党政権は子ども手当などによって社会保障を増やし、「コンクリートへのバラマキ」を「人へのバラマキ」に変えただけである。

 予算の無駄を削減する場が国会の予算委員会なのだが、こっちは「政治とカネ」で大荒れで、まったく機能していない。そもそも予算委員会で予算が修正されたことは、55年体制になってから一度もないのだ。このような慣例は、自民党の絶対多数のもとで、与党と大蔵省の折衝で予算がすべて決まった時代の遺物だ。野党も最初から予算案は修正されないものとあきらめているから、予算の中身はほとんど審議されず、予算を「人質」にとって政府から他の問題で譲歩を引き出そうとする。おかげで予算委員会は、政治資金や沖縄の基地問題など森羅万象を審議する「よろず委員会」になってしまった。

 予算編成は、国家戦略の根幹である。小泉政権では、経済財政諮問会議が「骨太の方針」を示して政治レベルで議論するしくみがあったが、民主党はそれを廃止してしまい、代わりにできた国家戦略局は「予算編成は行なわない」と決めたため、機能していない。根幹の一般会計を財務省が決め、その枝葉の仕分けを国会議員が「下請け」として行なう(仕分け結果を参考にして主計官が予算を決める)というのでは、「政治主導」のスローガンはむなしい。

 大統領と議会が「ねじれ」たり、下院が可決した予算案を上院が否決するといった事態は普通の国では当たり前であり、予算は最大の交渉材料である。ところが日本では、万年与党と万年野党が固定されてきたため、与野党ともに予算をめぐる交渉をしたことがなく、政治折衝まで財務省に丸投げしてきた。まして野党の経験しかない民主党では、予算をどうやって修正するかもわからないだろう。結果的に「財務省一元支配」はむしろ強まった。

 予算委員会は、国会のもっとも重要な委員会である。そこで肝腎の予算が審議されず、金銭スキャンダルばかり議論される日本の現状は、貴重な審議時間の無駄づかいである。政治とカネの問題は特別委員会に切り離し、予算委員会では予算の中身を「仕分け」して修正すべきだ。

プロフィール

池田信夫

経済学者。1953年、京都府生まれ。東京大学経済学部を卒業後、NHK入社。93年に退職後、国際大学GLOCOM教授、経済産業研究所上席研究員などを経て、現在は株式会社アゴラ研究所所長。学術博士(慶應義塾大学)。著書に『アベノミクスの幻想』、『「空気」の構造』、共著に『なぜ世界は不況に陥ったのか』など。池田信夫blogのほか、言論サイトアゴラを主宰。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中国軍が台湾周辺で実弾射撃訓練、封鎖想定 過去最大

ワールド

韓国大統領、1月4ー7日に訪中 習主席とサプライチ

ビジネス

米シティ、ロシア部門売却を取締役会が承認 損失12

ワールド

マレーシア野党連合、ヤシン元首相がトップ辞任へ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 3
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    「すでに気に入っている」...ジョージアの大臣が来日…
  • 6
    「サイエンス少年ではなかった」 テニス漬けの学生…
  • 7
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    【銘柄】子会社が起訴された東京エレクトロン...それ…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 3
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 7
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 10
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story