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コラム
池田信夫エコノMIX異論正論
「租税競争」に日本は生き残れるか
経済危機が一段落した今、先進国と新興国の新たな闘いが始まっている。先日、ある総合商社の幹部から「いま日本のメーカーは徹底的なコストダウンのために本格的な生産拠点の移転を考えている」という話を聞いた。請負契約が規制され、派遣規制が強化されて労働コストが上がり、他方で韓国や台湾から「法人税を1年間免除するから工場を移転しないか」といった誘いが増えているという。東芝やシャープなどが生産拠点を海外に移し、サンスターは本社をスイスに移した。
上の図は、アジア諸国の法人税を比較したものだが、税率は年々下がっており、日本の税率はアジア平均の2倍近い。これはあくまでも法人税だけを比較したもので、社会保険料などの負担を考えると日本企業の負担は50%を超え、他方で中国や韓国などは企業誘致のために法人税を10%台に減免するなどの措置をとっている。企業が生産拠点を海外に移す重要な要因が、この租税競争なのだ。
OECD諸国でも最高水準になった日本の法人税率を維持したまま、民主党の公約している雇用規制や環境基準の強化を進めれば、製造業は生産拠点を海外に移転するしかない。日本生産技能労務協会の調べによると、製造業への派遣労働が禁止されれば、2割の企業が海外への生産移転を考えているという。
これに対して、労働組合などから「企業の海外移転やアウトソーシングを規制すべきだ」という声が出はじめている。こういう要求はアメリカでも出ているが、これから海外移転が増えると、こうした保護主義が日本でも出てくるおそれが強い。政府の国家戦略室の「政策参与」になった湯浅誠氏は、今週の『週刊東洋経済』で次のようにのべている。
輸出型の大企業も、日本人を雇用して日本の消費者を相手にして国際企業に成長したわけですよね。そのくせ税金の安いところに国籍を移すとしたら、その姿勢やモラルを社会は許容すべきではありません。[中略]生存を確保するための最低限の規制は必要です。企業もそこはあきらめてほしい。
こんな規制をしたら、ただでさえアジア企業との競争に脅かされている日本の製造業は壊滅し、結果として雇用も失われるだろう。それは企業の利益を守るか労働者の利益を守るかという利害対立の問題ではない。保護主義はすべての国を不幸にするというのが、アダム・スミス以来200年以上変わらない経済学の真理なのである。
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