最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
この夏の異常気象をポートランドで考える。エコビル、環境、建設業界の女性活躍
| 建物と健康のあり方を追求する時代へ
人は生涯の約90%を建物内で過ごすと言われています。それだけに、建物空間は健康に大きな影響を与えるということが言えるのでしょう。
実は、ここ近年までクーラーを家に設置する必要が無かった、アメリカ(とカナダ)北西部地域の気候と一般住宅。しかし今年の猛暑を機に、ローンを組んでエアコンを導入する*一般家庭が一挙に増えました。同時に、導入したくてもコスト的に断念をした。そんな話もよく耳にします。
コロナ禍とブラック・ライブズ・マターからの波を未だに引きずって、開店休業の店舗もまだ数多く残るポートランドのダウンタウン地区。しかし、コロナで停滞していた新しい建築は徐々に再稼働され始めているのは、明るいニュースです。
そして、現在建築されている建物のほとんどがグリーンビルだと、サマーさんは語ります。
「すでにご存じのように、建築物は気候変動の大きな原因となっています。そのため、地域社会や環境に優れた建築物を作ることがとても大切なのです。
エネルギー使用量を削減することで、排出量は削減されます。また、持続可能な土地、水効率、エネルギーと大気、材料、室内環境の質など、全体的なアプローチをとることも重要になってきます。
建物と人間のパフォーマンスを向上させる太陽の光や熱、風といった自然界のエネルギーを用いて快適な家づくりをするという設計手法のパッシブ・デザインシステム。昼光対策、自然換気、外壁の性能向上などに力を入れること。また、再生可能エネルギーを利用した空調設備の導入も必要です。
廃棄されたエネルギーや水を回収し、新たな目的のために再利用できるようなシステムを用いて、可能な限り自然により近い方式を取り入れます。
このようにして、人と環境にポジティブな影響を与える建築環境を実現していくこと。これが現代の、そしてこれからの地球と社会環境に必要なことだと信じて働いている私です。」
ならば環境面から考えた時、より良い未来のために何をすべきなのか。こう問いかけた時、「最新のエコ建築認証システムのリビング・ビルディングは、知っている?」と逆に聞かれました。
このリビング・ビルディング。自然と調和したクリーンで効率的な運用を行う建物の事を指します。要するに、自然のプロセスを模倣して建てられた建物のことだと説明してくれました。
「このような、クリーンで効率的なオペレーションシステムを行う建物をもっと増やしていく。このことが、これからの社会には必須なんです。
すべての建物やコミュニティにとって、環境への影響をできる限り減らすことは今の社会には必要不可欠な条件となっています。そしてこれは、建物の寿命までのコスト削減にもつながっていきます。
また、昼間の光を増やす工夫をして、電灯・電力を減らすこと。このことでエネルギーを節約したり、ホルモンや睡眠を調整する概日リズムを整えることも可能です。
ほんの少しの工夫から、自分の健康上のメリットを得るだけではなく、地球の環境を守る事に繋がるということを意識して欲しいのです。」そう微笑むサマーさん。
とは言え、一般的にこの様な試みが出来るのは、大企業や新築大規模ビルだけという印象はぬぐえません。
中小企業が主流ビジネスのポートランド、そして日本のまちの中小企業経営者にとって、有益な持続可能性のコンセプトとは何でしょうか。
「人材を惹きつけ維持をする。そして、健康で安全な職場を確保する。このようなことは、小さな規模からできると思います。」
例えば、米国からはじまったWELL認証。ビルやオフィスなどの空間を、『人間の健康とウエルネス』の視点で評価・認証する性能評価システムです。
WELL認証を受けるために要となるリストは、10のコンセプト(空気、水、食物、光、運動、温熱快適性、音、材料、こころ、コミュニティ)で構成されています。
「予算が厳しい中小企業であれば、移動しやすいように動線を考えたり。光を取り入れやすいように窓際においてある物を移動させたり。植物を増やすことで、空気の質を改善をしたり。そんな、小さな試みを取り入れることで、よりよい職場環境を造り出すことができるのではないでしょうか。お金を掛けられないのであれば、社員自らがアイディアを出し合う。そうすれば、より身近に良い環境を生み出すという喜びにも繋がりますから。」
以前は、いかにして環境を保護し、エネルギー効率を高めるかに重点が置かれていた建築環境。でも現在は、人間に焦点を当てたものに移行してきています。加えて室内環境の質を高めることで、その場を使う人々が、どのような恩恵を受けることができるのか。そんな点が、より注目されているのです。
事実、世界の温暖化が進んでいること、その影響で異常気象が増えているということ。その対策としての脱炭素が必要で、再生可能エネルギーへの移行が欠かせないということ。そんな部分は、おぼろげに理解はしている私たち。
と言いつつも、今のコロナ禍で、まだまだマイナス要因の多い生活を強いられている人が多いのも事実です。地球環境より、目の前の生活に心が奪われているのは仕方がないことかもしれません。
と同時に、このコロナによって地球上がいかに相互に繋がっているのか。そして、徐々に異常気象を体感し始めたのも、この夏でした。
自分のライフスタイルに合う、そんな心地よい生活のため。そして、将来の永続的な生活のスタイルのため。ちょっと、立ち止まって思いを巡らせる時なのかもしれませんね。
これからの季節、あなたはどのように健やかに暮らしていきたいですか。
「本、コト、ときおりコンフォートフード」
サマー|she/her|エコリアル社 代表
アダム・グラントの『Think Again』【英文のみ】
『自分の中の固定観念を捨て、考え直すこと』。この2年間、刻々と周囲の環境が変わる日々を私たちは経験しています。ですので、いつまでも凝り固まった考え方でいたら、問題は解決していかないということも多く経験しているのではないでしょうか。
間違っていても良い。先ずは、新しく適応し続けること。この本に書いてあることは、持続可能性、多様性・包摂性の鍵でもある『聞く』ことに再度目を向けるように。そう示してくれる、心の友なる一冊です。
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
Facebook:Yayoi O. Yamamoto
Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)