最新ポートランド• オレゴン通信──現地が語るSDGsと多様性
ポートランド流 持続可能な『もの作りとデザイン5つのヒント』
|くらしの中の『つかう責任』
家具も道具も新品より、趣のある中古が好き。「古いものは、丈夫で仕事が良いものが多くあります。先人のものを受け継いで大切に使うことは、私の暮らしのすべてに通じるところです。」
インテリアだけにはとどまらず、モノを購入する時には、これから何年も使い続けるかをよく考えてから買うようにしているテスさん。
「例えば、自転車を購入する場合。自分の年齢を考えてこれから何年間使用するのか、必要な時だけ友人から借りることは可能かをまず考えてみます。子供の洋服を購入する際には、国内生産品であるかを先ず確認します。でも、高価すぎるものには手を出しません。」
同時に、お下がりとして下の子が着たり使ったりすることができる良質性も大切です。素材が良ければ、修繕もできます。もし、2人の子が成長してまだ良いコンディションであれば、友人の子どもに託したりもします。高級品でなくても、きちんとした質のものであれば何人もの人が着ることができ、そのモノが生かされることに繋ります。また、モノを大切にするという習慣も芽生えます。
「商品を『つくる責任』がエッグ・プレスにあるように、消費者として『つかう責任*』があると信じています。」
加えて、今の様な厳しい環境でも『こころのあるべき位置』という知恵を二つ教えてくれました。
コロナ禍での日々のルーティーンを『生活の退屈な繰り返し行為』とみなさないように、些細な幸せに意識を向けて暮らしを続けること。
そして自分のこころを落ち着かせるため、そして小さな幸せを見出すために、隙間時間を見つけて自分の好きなことをすること。
テスさんの場合は、大好きなニットを編むことだといいます。「編み物は、デザインと発想の源。集中力を必要としながらも、同時に瞑想的な役目を果たしてくれます。これには、素敵なおまけ(副産物)もあるのです。コロナ禍で会えない親戚や親しい友人に自分の編んだものを贈る。今は会えないけれど大切に思っているよ、繋がっているよという思いという名のギフトです。」
ひとりで過ごす時間があることで、その人生をより一層豊かにする。そういう意識を持ちつつ暮らすことは、とてもすてきなことです。
|これから、そして子供たちに受け継ぐ未来のためのポートランド
子供の頃から、ポートランドで育ったテスさん。ブラックライブズマターからコロナ禍で、劇的に日々変わり続けているこの町の今とこれからを考える日々だともいいます。
その一つは、『変わり者の町であり続けよう(Keep Portland Weird)*』というポートランドのまちを象徴する言葉。本来は多様性を受け入れようという意味で使い始めたにも関わらず、今はまるで違う意味に取り違えられているということを嘆きます。
現在アメリカの多くの町は、コロナ禍以前からの果てしない問題課題が山積みです。それは、ポートランドの市の行政局も同じこと。多くの市民と子供達も人種差別を始め、経済・学習・健康格差で苦しんでいるのも辛い現実です。今はなによりも、これからの将来を見据えての『新しい計画*』が必要だと感じています。
過去のポートランドのまちづくりという事例や通例だけから脱皮をして、良き方向へと進んで行かなければいけないはずです。過去数年間の枠や上辺だけの持続可能性。『そうだと思われていた』町づくり・もの作りではなく、新たな形の『本物の持続可能』をポートランドは考え始めなければいけない時だといいます。
ずっと、好きでいる。その真っすぐさや誠実さが、この町での暮らしを支えています。そして子供達が、この町に生まれ育って良かったと言える。そういう具体的な変革が今必要とされているのは確かです。
手に入れたら終わりと思いがちですが、モノ、町、人間関係というデザインのすべては「それから」が大切だと。そんなデザインの本質は、素材や使用する目的への配慮、そして個人への尊重にあると感じました。
「変わらないこと」そして「進化し続けること」。一見相反することがらを、バランスよく日々行うことの大切さ。
生活者として起業家として、自分で選び取ったというぶれない部分が、テスさんの多忙ながらも平安なこころと日々の暮らしを支えています。
「本、コト、ときおりコンフォートフード」
テス|she/her|Egg Press 代表
機織り機(ギリモクラ型)
去年の夏、中古の機織り機を手に入れました。織機は、未知の可能性、美しさ、秩序を編み出してくれるものです。織機と一緒に素晴らしい思い出も作り出されました。ティーンの長男と一緒に車を10時間走らせて取りに行ったら、想像していた以上に巨大! 汗水たらしながら苦労して一緒に車に乗せたり、往復のドライブ中に普段ではしないような話ができました。予期せぬ形で入ってくる副産物は、いつもなによりも素敵なのです。
自家栽培のトマトから作るスープやソース
毎年庭に、6鉢程のトマトの苗木を植えています。そこから採れるトマトをオニオン、クローブ、ガーリック、オリーブオイル、塩コショウと一緒にオーブンでじっくり焼き上げて。それを保存袋に入れて冷凍保存をしておくと、ひと冬分のスープ、パスタソースの出来上がり。豪華な食材がなくても工夫すれば豊かな食卓になります。何ものにも代えがたい家庭の味になることは、ささやかな喜びです。
記:各回にご登場いただいた方や記載団体に関するお問い合わせは、直接山本迄ご連絡頂ければ幸いです。本記事掲載にあたってのゲストとの合意上、直接のご連絡はお控えください。
著者プロフィール
- 山本彌生
企画プロジェクト&視察コーディネーション会社PDX COORDINATOR代表。東京都出身。米国留学後、外資系証券会社等を経てNYと東京にNPOを設立。2002年に当社起業。メディア・ビジネス・行政・学術・通訳の5分野を循環させる「独自のビジネスモデル」を構築。ビジネスを超えた "持続可能な" 関係作りに重きを置いている。日系メディア上のポートランド撮影は当社制作が多く、また業務提携先は多岐にわたる。
Facebook:Yayoi O. Yamamoto
Instagram:PDX_Coordinator
協働著作『プレイス・ブランディング』(有斐閣)