南米街角クラブ
スラム街、大金持ち、田舎、先住民、外国人、ソーシャルメディアからみるブラジルの暮らし
ワールドカップ優勝候補であったブラジル代表がクロアチアにまさかの敗退。
その瞬間に起こった失望の声と大きなため息も、年末のせわしなさと共にすぐ消え去ってしまったような気がする。
というのも、クリスマスはブラジルで最も重要なイベントの一つであり、12月になるとボーナスを受け取り、プレゼント商戦がはじまり、パーティー用の服が売れ、美容室の予約がいっぱいになり、クリスマスが終わったら海辺や別荘で年越しをする...そんなことで頭がいっぱいな人が沢山なのだ。
いつものようにTwitterで面白そうなニュースを漁っていたら、どこかで見たことのある少年の写真が載っていた。
彼はミナスジェライス州の人口3万人にも満たない小さな田舎町でTikTokで生計を立てるシュリッパという愛称の青年で、自宅を低コストでクリスマスデコレーションするというTikTok動画が950万回再生されたのをきっかけにニュースで特集されていた。
ソーシャルメディアはブラジルのトレンドを調査するのに丁度よい。
私が特に好きなのは、ブラジルで暮らす様々な人たちの生活をみることだ。シュリッパもその一人だった。
ブラジルは広く、地域によって様々な文化がある他に、格差の大きい国でもある。
また、これまであまり明らかになっていなかったスラム街の内部や先住民の暮らしを日常的にみることができるのだ。
今日はブラジルの様々な暮らしをTikTokのアカウントと共にご紹介していきたい。
1. リオデジャネイロ、スラム街の暮らし @rockcria
南米最大コミュニティであるリオデジャネイロのスラム街ホシーニャの日常を映し出す。丘に増築され続けた基地のような内部、頂上からの眺めだけでなく、郵便物はどう受け取るか、家賃はいくらかなど質問にも答えている。
【下記動画の解説】
「ホシーニャあるある」として、雑種の野良犬や張り巡らされている配線、狭い階段、渋滞などを紹介
@rockcria Coisas que Tem na Rocinha ! mais ninguém te mostra , Pega a cena #rocinha #favela #paz ♬ Base de Funk Tamborzão 2011 - Sp no Beat
2. 「安いわね」でブレイクしたブラジルの女王 @mariaberklian
ブラジルの大金持ちがどんなものか見せつけてくれるのは「ブラジルの女王」の愛称をもつ84歳のマリア・ベルクリアン。
アルメニア移民の子として生まれ、夫と共にスーパーマーケットを経営し大成功。サンパウロの高級ショッピングセンターにて高級ブランド店で買い物し、何十万もするバッグをみて「安いわね」というのがお決まり。これに対して嫉妬の声もあるが「自分のお金なんだからいいじゃない!」という声も。また、26年前に夫を亡くしているため、「僕と再婚しませんか?」とのコメントも多い。
【下記動画の解説】
プラダにて「安いわね」とバッグ3つをお買い上げ。総額10万レアル(日本円で約260万円)。これはブラジルの最低月収の77倍。
@mariaberklian E vamos finalizar o sábado com comprinhas básicas na Prada com a rainha e a princesa #rainha #rainhadobrasil #queen #fy #fyp #grandmasoftiktok #grandma #viral #avo #vo #vovo #love #happy #prada #chanel #ch #gucci #lv #hermes #balenciaga #fouryou #fouryoupage #shopping #lux #lifestyle #million #mulheres #girls #bags #bag #bolsa #luxo #family #royal #royalfamily #tiktok #tiktokers #tiktoker ♬ som original - Maria Berklian
3. 田舎訛りとシンプルな暮らしでインフルエンサーに @chulipa71
前述したシュリッパはミナスジェライス州の田舎で暮らす青年。日常生活を包み隠さず撮影したものに田舎訛りのナレーションを入れたシンプルな動画で話題となり、今ではTikTokのライブで得た収益で生活している。また、車の免許をとるために資金が必要になり、オンリーファンズというサブスクリプション型のサイトでアダルト向けコンテンツの配信もはじめた。
【下記動画の解説】
朝のルーティンを紹介。蚊帳を外し、ベッドメイキングをして歯磨きをしてから鶏と犬にエサをあげる。朝ごはんを食べたらジムに行くのが日課だそうだ。
@chulipa71 Rotina
♬ som original - Chulipa
4. 多くの人が知りたかった先住民たちの日常 @cunhaporanga_oficial
アマゾナス州マナウスから少し離れた22歳のマイラは十世帯45人の先住民の村での生活を紹介している。これまで村は観光客を受け入れてきたが、パンデミックの影響で訪問者がいなくなり、TikTokを始めることにした。家族も、マイラ本人も「私たちの文化に興味を持ってもらえることが嬉しい」とテレビのインタビューで答えている。
【下記動画の解説】
タトゥヨの人々の美しいフェイス&ボディペイントの原料について。赤いインクはウルクンという実を干してから潰して水を加えたもの、黒いインクは炭を使っているそうだ。木の枝を使ってペイントする様子も撮影。
@cunhaporanga_oficial Nós fazemos as pinturas corporais com a fruta Urucum q é o vermelho e o preto é do Carvão. #tiktok #tiktokindígena #geraçãotiktok #foryou #viral ♬ som original - Jūgoa
TikTokで注目を浴びたマイラとタトゥヨの人々の暮らしは、日曜の家族向け番組でも特集された。
5. ブラジル人と結婚したロシア人が覚えた事 @prof.russa
ロシア先生ことエレーナはロシア生まれ。中国の大学でロシア語教師をしている所、国際線パイロットのブラジル人男性に出会い結婚。それからブラジルでポルトガル語を覚え、ブラジルに来てびっくりした出来事やロシアの暮らしについてブラジル人向けに発信している。現在はイスタンブール在住。
【下記の動画解説】
ブラジルに来て覚えた事として、毎日シャワーを浴びること(ロシアでは全身を洗うのは週に1回だったそう)、一日に何度も歯を磨くこと、一度着た洋服は選択する事、普段から香水をつけることを挙げている。
@prof.russa ♬ The Russian Song - Kalinka Remix - Crazy Monkey
6. 大阪出身サンパウロ育ちの人気インフルエンサーが明かすブラジル生活 @yuma_ono
日本人の両親と共に1歳でブラジルへ渡ったユーマ・オーノ。ブラジル育ちだが両親の影響や日本への滞在経験から日本文化やブラジルと日本の違いなどを投稿し、TikTokのフォロワー数は480万人を越える。現在は日本を訪問中。
【下記動画の解説】
学校のおやつに持参して、同級生にからかわれた日本食を紹介。
「黒い紙」と言われた海苔や、ペットボトルに入れた麦茶、おにぎりなど。他にもお母さんや妹さん、アジア系ブラジル人の友人が登場する動画も面白い。
@yuma_ono Ja comeram oniguiri ou o Nori? #food #japanesefood #japan ♬ som original - Yuma Ono
彼らはTikTokだけでなくYoutubeやInstagramのアカウントも同時に更新している。
それぞれのメディアで異なるコンテンツを配信しており、TikTok向けのコンテンツが最も素朴でシンプルだと感じた。
TikTokは2022年ブラジルで最も使われたソーシャルメディアランキングで昨年9位から5位まで上昇。
ちなみに1位はワッツアップと呼ばれる日本でいうLINEのようなテキストメッセージアプリ、2位はYoutube、3位はInstagramとなっている。昨年1位だったfacebookは4位まで降下。特に若い世代のユーザー離れが目立つようだ。
ブラジルは世界で最もソーシャルメディアを使う国3位*で、1日に3時間42分も時間を割いている。
特にTikTokやInstagramのリールは次から次へと動画が流れてくることで、気づいたら1時間も経っていたなんてことも(筆者も経験済み)。
*1位はフィリピン (4時間15分) 、2位はコロンビア (3時間45分)
視聴数を伸ばすために撮られた大袈裟な動画やフェイクニュースも問題になっているが、これまでなかなか見ることが出来なかった世界を見ることができることや、録画技術や機材がなくてもスマートフォン1台で動画を制作し投稿できることは大変興味深い。
また、ソーシャルメディアは場所を問わず、事務所に頼らず有名人を生み出す機会にもなっている。
そして何より、多種多様なブラジルでの生活を知るにはとても良いツールだろう。
今後も面白いブラジルのソーシャルメディアアカウントを紹介していきたい。
【追記】
この記事を公開した後、アメリカにおけるTikTok規制の話が思ったよりも進んでいる事をしった。
ブラジルでは大統領選でも候補者がTikTokを積極的に使用。TikTokの危険性についてのニュースは流れているが、アメリカや日本ほど警戒している雰囲気はないため、筆者もすっかりその危険性について忘れかけていた。
仮に各国で全面的な規制が行われた場合、ブラジルで規制を検討することもあり得るだろう。
そんな時、発信者とそのフォロワーはどこに流れるのだろうか。
今のところ、Youtubeが最も安定しているのではと筆者は思う。Youtubeは2023年からショート動画の再生回数による収益化もスタートする。ブラジルでTikTokの雲行きが怪しくなれば、ユーザーはYoutubeに集中する可能性もあるだろう。
2022年にブラジルで最も利用されたソーシャルメディア(矢印は昨年比)
1. WhatsApp ↑
2. YouTube →
3. Instagram ↑
4. Facebook ↓
5. TikTok ↑
6. Facebook Messenger ↓
7. LinkedIn ↓
8. Pinterest ↓
9. Twitter ↓
10. Snapchat →
著者プロフィール
- 島田愛加
音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。
Webサイト:https://lit.link/aikashimada
Twitter: @aika_shimada