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南米街角クラブ

島田愛加|ブラジル/ペルー

ブラジルの中で生きた愛国心、時と共に明らかになる日本移民史

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福岡県出身、現在は沖縄県在住の松林要樹監督。『花と兵隊』(2009)でデビューし、『祭の馬』(2013)では国外多数の映画祭に招待された。(写真提供 松林監督)

|ブラジルのナショナリズムが高揚させた日本人移民の愛国心

最初の日本人移民受け入れから約20年後、1930年代から強まっていたブラジルのナショナリズムは、移民が持ち込む自国の文化を消し去ろうとしていた。
1938年の新「移民制限法」により児童への外国語教育が禁止され、結果的に日本人学校を閉鎖ざるを得なくなると、日本人移民たちの愛国心はブラジル政府への反骨心にかられて更に強くなり、戦争と共にエスカレートしていった。
第二次世界大戦時が始まり、ブラジルで生きる日本人は母国の勝利を祈る一方、ファシズム的な独裁国家を作り上げていたヴァルガス政権は中立な立場にいたにもかかわらず、アメリカ合衆国からの圧力を受け連合国側についた。
それに伴い、1942年には枢軸国である日本、イタリア、ドイツとの国交断絶が決定し、在リオ帝国大使館および在サンパウロ総領事館も閉鎖となった。更には、反枢軸国のブラジル国民からも襲撃される事件が相次ぎ、立ち退き命令が発表される事態が起こる。

|「勝ち組」と「負け組」がもたらした分裂

日本語新聞の廃止と国交断絶により、ポルトガル語を充分に理解できない日本人移民の間で枢軸国側の優勢を伝える嘘のニュースが広まった。
これはブラジルが伝えるニュースへの不信感と「日本軍は絶対」という愛国心から、日本が降伏してからも日本が負けた事を認めない「勝ち組」の存在を決定づけることになり、事実を認める「負け組」との間に紛争を引き起こした。
事態は詐欺、殺人事件にまで発展し、同じ日本人移民同士に深い溝を作ったのだった。

|24時間で全てを失ったサントスの移民たち

松林監督が追ったのは、第二次世界大戦中に起こった枢軸国側の移民に対する強制退去命令の中でも最も冷酷と思われる、サントスでの出来事だ。
サントスから出港したブラジルとアメリカの船がドイツ軍によって撃沈され、港近隣の枢軸国移民にスパイ容疑がかけられたのがきっかけだった。
政府からの立ち退き命令の期限は24時間。混乱の中、家や畑、家畜などゼロから築き上げた財産を全て失った。監督はこのサントスから離れざるを得なくなった人々の名簿を発見し、苗字から6割が沖縄出身の移民だということを知る。
沖縄出身の移民が本州出身の移民から差別を受けていた事実を明らかにし、本作のタイトルにもなった。
この事件に関わった人々がブラジルのどこかで暮らしているというところに目を向けた監督は、当事者や関係者の取材と共に、それを過去の出来事ではなく現在進行形として映し出した。

|必ず聞かれる質問「日本のどこ出身なの?」

一世はもちろん、二世でも日本語を話す人達は、私に必ず「日本のどこ出身なの?」と聞いてくる。
自分のルーツである出身地を非常に大切にしていると肌で感じるが、実際それが現れるように、ブラジル日本都道府県人会連合会が存在する。
元々は日本に住む移民の肉親と情報を共有するためのブラジル側の連絡口として結成され、各県ごとに県人会と呼ばれるコミュニティが存在し、それぞれが移民の資料を管理したり、イベントや日伯間の交換留学を行ったりしている。県人会施設は日系人を中心に解放され、学生や日本人の短期滞在者向けの宿舎として貸し出しを行う所もある。
「どこ出身なの?」という好奇心からくる質問の裏に、郷土愛や隠された県同士のしがらみがあることを、私は薄々気付いていた。

しかしながら、根強く伝えられていた大和魂も近年は少しずつ変わってきている。
日本人だけでなく、ブラジルに生まれた移民の子孫は"ブラジル人"であるというアイデンティティを持ちながらも、ポジティブに自分のルーツを知ろうとしているように感じられる。
計り知れない努力と苦労からなる日本移民史に隠されたタブーを明らかにする時がやっときたのかもしれない。

 

Profile

著者プロフィール
島田愛加

音楽家。ボサノヴァに心奪われ2014年よりサンパウロ州在住。同州立タトゥイ音楽院ブラジル音楽/Jazz科卒業。在学中に出会った南米各国からの留学生の影響で、今ではすっかり南米の虜に。ブラジルを中心に街角で起こっている出来事をありのままにお伝えします。2020年1月から11月までプロジェクトのためペルー共和国の首都リマに滞在。

Webサイト:https://lit.link/aikashimada

Twitter: @aika_shimada

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