スタートアップ超大国 インド~ベンガルールからの現地ブログ~
現場から見るインドのアグリテックスタートアップ:インド農業概観
アグリテックの業界に身を置いているので、インドにおける「アグリテック」に関して何回か分けて紹介していきます。
ただ、インド農業について解説無しに、いきなりインドのアグリテックスタートアップを個社別に紹介しても「???なんだこのサービスは??」となる懸念があるので、まずはアグリテックサービスが勃興する前提となったインドの農業概況について紹介します。
まずは、インドにおける農業の立ち位置やその概況を紹介します。
1.農業国家インド
まず、2つの巨大河川によって形成された豊饒な大地がインドの農業基盤となっています。
インドの歴史を古代までさかのぼると、世界四大文明の一つ、「インダス文明」が挙げられ、インダス川に裏打ちされた豊かな農耕文明が発達し、更にインダス文明後にガンジス川流域で文明が発達してきた経緯があります。
【インダス川、ガンジス川:河川流域概略図】
(Google Mapより筆者作成)
では、続いて統計的なデータをおさらいしていきましょう。
まず、穀物食料自給率ですが、100%を越えて、108%となっています。
他の国と比べてみると、以下の表のようになっています。
(農林水産省、世界の食料自給率データより引用、元データは2017年)
こちらはGDPに占める一次産業割合ですが、60年代から2019年までで40%台から15%台へと減少しています。
(世界銀行データより引用)
GDPの貢献度は低くなっていますが、農業従事者はまだまだ多いです。
以下は国勢調査2011のデータですが、総人口約12億人に対して、農村人口は約68%の8億3000万人となっています。
そして、労働人口は4億8000万人に対して2億6300万人と労働人口の半数が農業従事者となっているのです。
仮説の域を越えませんが、ロックダウン等で都市部から農村へ人口が戻っているはずなので、農村人口と農業従事者人口は増えていると推察されます。
(インド農業省、Agriculture statics at glance 2018より引用)
2.インドの主要農作物
続いて、農作物についてです。
インドの農業は世界有数の規模を誇り、米と小麦の生産量は世界でもトップランクになっています。
小麦の生産量ですが、こちらの統計では、一国単体の生産量だけなら、中国に次いで世界第二位です。(地域別で分ければEUに次いで第三位です。)
【主要国の小麦生産量】
(United States Department of Agriculture, Foreign Agriculture Service, World Agricultural Productionより引用)
続いて、米の生産ですが、中国に続いて世界第二位の生産量を誇っています。
(United States Department of Agriculture, Foreign Agriculture Service, World Agricultural Productionより引用)
以下はインドにおける主要作物の分布となりますが、かなり大雑把に言ってしまうと、次のようなカテゴリができるでしょう。
東部&南部の米
北部の小麦
中西部の雑穀
【インドにおける主要作物の生産分布】
(農林水産省レポートより引用、元データはインド農業省から作成)
インドは亜大陸に複数の気候帯があるので、農期は地域によって異なるが、大まかに2シーズンとなっています。
(モンスーン期もカウントする場合は、3シーズンの農家も存在します。)
【代表的なシーズン例】
ラビ期(乾季、10~4月)
カリフ期(雨季、5~7月または6~9月)
モンスーン期(雨季、7~9月)
これらのシーズンに応じて、農家は育てる作物を変えており、農家によっては2毛作から3毛作が主となっています。
3.インド農業の商流
歴史的背景と全体的な統計をみたところで、ここでは大まかな商流について紹介します。
大まかには、以下の流れをとって農作物は消費者まで届きます。
(各種ヒアリングより筆者作成)
上記の図ででてきた、用語を以下で解説します。
■マンディ市場:ヒンディー語でマンディとは市場を意味します。マンディを経由して、農作物が消費者へ届くスキームというのが、インドの伝統的な農業サプライチェーンでした。多くの州では、農産物マーケティング委員会(Agricultural produce market committee,略称APMC)が農産物の卸売市場を運営してます。卸売市場は、穀物、豆類、野菜、ジャガイモやタマネギ、香辛料や調味料、果物など、扱う商品の種類に応じて分別されています。ただ、マンディを中心に多数の仲介業者が発生してしまい、農家から消費者までで仲介業者が増えすぎて搾取になっているという批判もありました。
■FPO:Farmers Producers Organizationの略称。日本でいう農協の金融機能と厚生機能がない団体というのが分かりやすいでしょう。農家がより消費者と繋がり、生活がよくなるようにとインド政府から発令された農協団体です。1FPOあたり、数百人から1000人までの農家で構成されており、数による交渉力と営業力の向上が目指されています。
■Co-Operatives:日本語では協働組合と訳されることが多いです。インドにおける協同組合とは、同じ地域の特定の目的のために自発的に集まった人たちの連合体と表現することができます。協同組合は、組合員が積極的に参加して原則を定め、組合員の利益のためだけに意思決定を行う自律的な組織であり、組合員によって管理されています。この場合では、農業をキーワードに合従した農民の連合体と表現できます。
さて、ここまでインド農業の概況ということで、主要農作物と商流について紹介してきました。
次からはリアルな課題に対してアプローチするアグリテックスタートアップを現場の視点から紹介していきます!
著者プロフィール
- 永田賢
Sagri Bengaluru Private Limited, Chief Strategy Officer。 大学卒業後、保険会社、人材系ベンチャー、実家の介護事業とキャリアを重ね、2017年7月に、海外でのタフなキャリアパスを求めてYusen Logistics India Pvt. Ltdのベンガルール支店に現地採用社員として着任。 現地での日系企業営業の傍ら、ベンガルールを中心としたスタートアップに魅せられ独自にネットワークを構築。2019年4月から日系アグリテックのSAgri株式会社インド法人立ち上げに参画、2度目のベンガルール赴任中。
Linkedin: https://www.linkedin.com/in/satoshi-nagata-42177948/