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森田早紀|オランダ

生ごみは無縁社会を救うのか。オランダの事例より

(iStock - PeopleImages)

専用パスを手に、読み取り部にタッチする。
ピーッ
と音がして、扉の鍵が開く。
重たい取っ手を勢いよく上にスライドさせると
とたんに鼻にツンと来るような臭いが。
急いで袋を入り口に押し込み
取っ手を下にスライドさせ
ドサッ
袋が下に落ちた音が聞こえる。

ゴミ出し完了。

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(筆者撮影 2021年1月 アパートの前に設置されたごみ箱。手前二つが可燃ごみ(その他のゴミ)、中央左手がプラ・アルミ・パック容器、中央右手が紙類、奥二つが生ごみ。私の住む市では、専用パスの制度は今月をもってなんと廃止された)

オランダの町でのゴミ出しはこのように、ごみの収集所に専用の容器があり、その中にゴミを入れる仕組みである。市町村によっては容器に鍵がかかっており、パスを持った住民だけが開けられるようになっているのだ。また、可燃ごみ、プラ・アルミ・パック容器、紙類、ガラス、生ごみ等に分別されている。ゴミ収集車が来る日は決まっているが、ゴミ出しは基本いつでもできる。

容器は地下に長く続いている。ゴミ収集トラックのクレーンで箱を持ち上げて、上部の空いた荷台に豪快に空ける。

iStock-1049278468.jpg

(iStock - MaestroBooks ゴミ収集の様子)

場所によっては、各家庭がゴミ回収ボックスを家の前に出したり、決められた場所に持っていったりすると回収してくれる地域もある。

ーーー 

話題を変えて、オランダの人口構成の変化を見てみよう。

オランダに今現在310万ある単独世帯は、2030年までに350万人に増える予測だ。全体の世帯数に占める割合も18%から19%に微増する。単独世帯に占める高齢者の割合も増えるらしい。(オランダ統計局 2018年

日本に比べたら、その程度は小さい。日本では全世帯中、単独世帯が2018年時点で35%強を占め、2040年には40%に達する予測である。(総務省 2018年

単身世帯は社会から孤立しやすい。例えば日本の単独世帯で「他者との会話がほとんどない」と回答したのは7%にのぼり、二人以上の世帯の値2.2%と比べて高い。また、他国の単独世帯と比べても(アメリカ1.6%、ドイツ3.7%、スウェーデン1.7%)、孤立の程度がはなはだしいことが分かるだろう。

また違う調査だが、オランダでは人口の12%が深刻な社会的孤立の状態(社会との接触を必要としている状態)にあるらしい。単独世帯でその割合は16%と高い。(オランダ統計局 2020年

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(iStock - sh22)

日本では既に「無縁社会」という言葉ができ、高齢者やその他世代の孤立が問題視されているが、オランダでもこれは大きな課題となってくるだろう。その鍵となるかもしれない取り組みを紹介する。

ある町での取り組み

オランダの東部、Overijssel州にあるHengeloという市では、ユニークな生ごみ収集の取り組みを行っている。

大型のゴミ収集トラックに加えて見かけるのが、前に大きなかごの付いた自転車。週3回、6つのルートを周り、それぞれ3つの決まった場所で15分ほど停車する。住民たちは両手に収まる小さなバケツを持って家から出てきて、自転車のかごに乗ったまた別の容器に中身を空ける。

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(2021年3月 筆者撮影)

この方法で集められた週3トンほどの生ごみは、円柱型の堆肥化機械(内部には一定間隔で回転する歯が数枚ある)の中で堆肥に変わる。そして生ごみ処理を担当する企業がその堆肥を使って野菜を栽培している。

ただし、このユニークな方法が普及しているのは、市民の5%ほど。残りは大手ごみ処理会社によって、冒頭で説明したような従来のやり方で生ごみを処理しているらしい。

ゴミと人が出会う場所

なぜわざわざこのような取り組みを始めたのか?既存のサービスと比べてどのような長所があるのだろうか?

環境面から言うと、ゴミ分別のメリットがまず挙げられる。

オランダでは、生ごみと可燃ごみは分別収集されているものの、可燃ごみの3割は生ごみが混ざっている。1980,90年代には5割だったのでだいぶ割合としては減ったけれど、まだまだだ。生ごみは水分を多く含み重いため、運搬に多くのエネルギーを必要とする。また、燃焼処理をする際にも効率が悪くなる。

さらに、回収された生ごみにも沢山のプラスチック容器や包装が混ざっている。大規模ごみ処理所ではそれ以上の分別には時間をかけず、そのまま堆肥化してしまうため、出来上がった堆肥はもはや土に混ぜるようなものではない。

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(2020年12月 筆者撮影 これが堆肥?と驚き呆れるほど異物が混入している、「堆肥」として売られているもの)

さて、Hengelo市の取り組みでは、各家庭が小さなバケツに生ごみを集めることで、生ごみ以外のものを入れないようにと意識しやすくなるし、バケツを空けて収集する時にも確認しやすい。また、ゴミ収集車の騒音問題や燃料の使用も減らすことができる。

さらに面白いのが、この取り組みの社会的インパクトだ。

住民たちが決まった時間、限られた15分の間に生ごみを捨てるために外に出てくる。例えば一人暮らしで周りとあまり交流のないおばあさんが、元気であるかどうかを確認できるチャンスとなる。会話をほとんどしなかったお隣さんと話す機会にもなるかもしれない。

また、自転車をこぎ生ごみ回収を行うのは、一般の労働市場では働けない人たち(例えば知的障がい・精神障害を持つ人、長期的に仕事を無くしていた人)だ。運転免許を持っていない人でもできる仕事で、かつ地域の人との接点が得られる。「今日もありがとう」などという雑談から人と接することに慣れたり、自信を持てたりする。彼らと接する住民たちも、彼らが働く姿を見て障がい者に対する考えが変わるかもしれない。

様々な人が交流する場所として機能しているのだ。

オランダだからできること?

もちろん自転車で、小規模のゴミ回収は、オランダらしい取り組みと言えるかもしれない。オランダの自転車使用率は高く、道路は自転車用に整備されていて、モノや人を運ぶのに適した形の自転車が簡単に手に入る。なにせ国民一人当たり1.3台の自転車を所有しているのだから。

郵便物も、出前も、ペットも子どもも、自転車の前かご、もしくは後ろで引く形のかごで運んでしまうのだ。

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(iStock - middelveld アムステルダムの郵便配達員)

例えば東京と比べたら比にならない人口密度も成功要因かもしれない。あまりにも人口密度の高い場所では、自転車収集のキャパシティを超えてしまうだろう。自転車で周れるような道路・住宅街のつくりであるかも考慮するべきだ。生ごみを分別する仕組みがどちらにしてもあるオランダ、そうしている市町村が少ない日本。日本で生ごみ分別の取り組みを始める際には、人々の行動を変えるという挑戦も待ち受けている。

それでも、生ごみを可燃ごみと一緒に処理する環境負荷や、養分の損失などを考えると、生ごみの分別・活用は取り組むべき課題だと私は考える。それに加えて、深刻さを増す社会的孤立と一石二鳥で取り組める課題だとしたら...

オランダと事情は違うと言えども、日本でももしかしたら、生ごみが社会問題の鍵の一つを握っているのかもしれない。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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