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森田早紀|オランダ

家畜の糞尿・生ごみ・医療廃棄物 なんでもごちゃまぜ、オランダのバイオガス・ダイジェスター

政府も平然と支援するブラックマーケット

このような問題があるバイオガス・ダイジェスターだが、政府は補助金などで支援をしている

2003年に補助金制度ができたのち、オランダでこの産業部門が成長した。2010年から13年までの補助金交付額は年間平均で5.5~6千万ユーロ(日本円で70-80億。1EUR=130JPY)。利益団体の活動により、2017年には小規模のmono-digesterに予約済み入札が行われ、1.5億ユーロ(200億円弱)が当てられた。2019年からは、mono-digesterとco-digesterの線引きがあいまいになったため、区別・特別扱いはなくなったようだが。

再生可能エネルギー導入支援制度について補足説明をしておこう。オランダには、持続可能なエネルギー生産に対して、「Stimulering duurzame energieproductie en klimaattransitie」(通称SDE++、直訳すると「再生可能エネルギー生産及び気候転換インセンティブ制度」)という入札制度があり、バイオガスもその対象である。詳しくはレポート(日本語)を見つけたので参考にしてほしい。

なぜオランダ政府はバイオガス・ダイジェスターを推進しているのか。それは、国が掲げる方針の複数に貢献する、という考えがあるからだろう。

まず、オランダは国として家畜の糞尿に頭を悩ませている。単純に、狭い国土に家畜が居すぎるのだ。家畜を育てて輸出した後にも、糞尿はオランダ国内に残るため、オランダは世界のトイレだと言っても過言ではないだろう。糞尿に含まれる窒素が過剰に環境に放出され、問題となっているのだ。

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(筆者撮影 2021年4月 研修でお世話になっているケアファームの鶏。柵の中を自由に、ゆったりと歩き回ることができ、一羽は外に出ることも覚えた)

また、オランダ政府は温室効果ガスの排出量に関して、1990年の水準と比べ、2030年までに49%削減、2050年には95%削減という目標を掲げている。さらにエネルギーに関しては、有限資源である化石燃料から再生可能エネルギーに方向転換し、かつエネルギー生産・消費による温室効果ガスの排出も抑えるという方針である。

バイオガス・ダイジェスターは、これらの目標にどれだけ貢献できているのだろうか。

家畜の糞尿の3%がバイオガス・ダイジェスターによって処理された(参考)。また、co-digestionはオランダのエネルギー消費量の0.2%を占め、そのおかげでエネルギー生産からの温室効果ガス排出量がCO2相当量で0.21%減少したそうだ(参考)。まだまだ効果は限られているようである。

ブラック・ホワイトがはっきりしないから難しい

もちろん、ブラックな施設だけではない。

世界最大の酪農共同組合で、世界トップ5に入る酪農企業でもあるフリースランド・カンピーナ(FrieslandCampina)は、組合員が自分の敷地に施設を整備し、糞尿を処理することを進めるプロジェクトJumpstartを2016年に開始した。もともとは整備資金の提供を行っていたが(つまり組合員が購入)、あまりにも初期投資額が高く参入障壁となっていたため、設備のレンタルも可能になった

組合員の発電量を計測するサイトまで用意されている。フリースランド・カンピーナが軸にしている3つの再生可能エネルギーは、太陽光・風力・そしてバイオガスだ。天気にもよるが、バイオガスは発電量の4分の1から3分の1を占めている。酪農家にとって重要な施設となりつつあるのかもしれない。

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(筆者撮影 2020年9月 オランダのワイン畑、背景に風車)

しかし課題は残る。

家畜の穀物消費量が多すぎると問題視され、牛の消化吸収・代謝効率をよくしようと品種改良がおこなわれている。しかし食べる量が少なくなると、糞に含まれるエネルギー量が減る。するとそこから発生するバイオガスの量も少なくなる。

また、動物福祉の観点から規制・需要が高まっている放牧だが、放牧地に散らばった糞尿は、牛舎内のように集めることができず、ダイジェスターに投入される量が限られてしまう(参考)。すると無駄な収容力ができる上に、投入物が施設内にとどまる時間が短くなり、メタン発生が最大化されない。

このような挑戦がありながらも、バイオガス・ダイジェスターの可能性を信じて、技術開発や市場開拓に励む人々・団体がいるわけだ。

臭いものには蓋をする、そんな一面もあるオランダのバイオガス・ダイジェスター部門。いや、ことわざだけではなく本当に臭いを嗅ぎたくはないけれども(というか、蓋を開けたら嫌気発酵ではなくなってしまうな)、政策や支援制度、糞尿問題・気候問題が変化していく中、これからどう発展していくかは目の付け所であろう。

 

Profile

著者プロフィール
森田早紀

高校時代に農と食の世界に心を奪われ、トマト嫌いなくせにトマト農家でのバイトを二度経験。地元埼玉の高校を卒業後、日本にとどまってもつまらないとオランダへ、4年制の大学でアグリビジネスと経営を学ぶ。卒業後は農と食に百の形で携わる「百姓」になり、楽しく優しい社会を築きたい!オランダで生活する中、感じたことをつづります。

Instagram: seedsoilsoul
YouTube: seedsoilsoul

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