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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

「クルド旗の日」の豪雨 - 洪水で11人が死亡したアルビル

アルビル県洪水発生後の様子 ©クルド自治政府内務省民間防衛隊のWebページ

一昨日、12月17日(金)はここイラクのクルド自治区で「クルド旗の日」という祝日でした。

これは2004年に自治政府が制定した祝日です。クルド人の権利のために犠牲となった人々を思い出し、旗という象徴を通してクルド人の抵抗と民族意識を喚起する、ここ自治区の市民にとって特別な日になります。

しかしそのお祝いが行われた前日16日の夜、イラク北部で断続的に豪雨が降り、それに伴いアルビル県南部の地区で洪水が発生。11名が亡くなるという悲惨な災害が起きてしまいました。

     

「クルド旗の日」のお祝い

主に4ヵ国(イラク、シリア、トルコ、イラン)の国境を越えて暮らし、「世界最大の少数民族」とも言われるクルド人ですが、クルドの旗をこのように公に安全に掲げられるのは自治区を持つここイラクだけです。

クルドの旗は1920年、第一次大戦後にクルド人が起こした民族運動の際に作られました。赤、白、緑の三色に21の光線が描かれた太陽が中央に位置しているデザインです。この赤は「クルド人のために戦った殉職者の血」を、白は「平和と平等」を、緑は「クルディスタンの自然の美しさ」を、そして太陽は「クルド民族の古代からの象徴であり、命の源」を象徴しています。太陽の光線が21本なのは3月の21日に新年を迎えることを表しています。

クルド人の新年であるノウルーズ(3月21日)は全世界のクルド人共通の祝日ですが、この「クルド旗の日」はクルド人全体の民族意識を象徴する日として、彼らの旗が掲揚されます。

いつもは対立しているクルド自治区内の政党同士も、この日はクルド人内の協力を訴え一緒にお祝いをします(あなたたちが一番協力してないだろ、と同僚はツッコミを入れていました)。

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クルドの旗 ©筆者撮影

今年は17日が金曜日で週末と重なってしまったため、そのお祝いの行事などは平日である16日に行われました。私も仕事場である病院内のセレモニーに参加しました。

皆さんクルドの伝統衣装に身を包み、クルドの愛国歌が流される中で軍人がクルドの旗を掲揚。それを参加者が敬礼して見守るという、民族意識の高揚感で溢れるイベントでした。

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式典の様子 ©筆者撮影

前日まで街中で見かけていたボロボロの旗も全て新品なものに取り換えられ、真新しい旗がアルビル市のいたるところで見られた日でした。

この日は自治区内の旗が総入れ替えされる日なのかな、と勝手に想像しています。

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テレビで中継される小学校での式典 ©筆者撮影

    

「クルド旗の日」の豪雨と洪水災害

盛大にお祝いがなされた「クルド旗の日」でしたが、その夜に悲惨な災害が発生しました。

この週末は数日ほど前から雨が予想されていましたが、式典のあった木曜日は相変わらずのいい天気。正直誰もこの後あんな豪雨が降るとは予想していませんでした。

しかし19時を過ぎたくらいから突風が吹き始め、厚い雲も出てきて雷も鳴り出します。その後、徐々に雨が降り始め、21時を過ぎたくらいには大雨に。

私も自分の部屋のベランダから外の様子を眺めており、アルビルの市民もほぼ1ヵ月ぶりの雨に外の様子を眺めていました。

しかしその後、雨は一晩降り続きます。日を跨いだあたりからFacebookに自治政府が洪水の発生を警戒するようメッセージを投稿しはじめていたそうです。

大雨は豪雨となり、次の日の朝にニュースやSNSを見てみると、洪水で流された車や泥で溢れた家の様子が投稿されていました。

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アルビル県洪水発生後の様子 ©クルド自治政府内務省民間防衛隊のWebページ

執筆時現在(12/19)、トルコ国籍1名とフィリピン国籍1名を含む11名が死亡、10ヵ月の赤ちゃんが行方不明のままです。

特にアルビル県南部の比較的低地となっている地区に被害が集中しており、私の同僚の家も床上1m近くまで濁流が押し寄せ、水位が上がる直前に急いで家族と避難をしました。この2日間、親戚と一緒に泥の掻き出し作業を行っていましたが、「また同じ家に住めるかは分からない」と語っていました。

クルド自治政府は685,000ドル(約7,800万円)の緊急支援金を準備し、被害にあった住民の援助や清掃などに充てると発表をしています。しかし前回10月の洪水に続き2ヵ月の間に2回も大規模な水害が起きたことで、アルビル市の排水システムに対する批判の声も高まっています。抜本的な対策を取らない限り、市民の自治政府に対する不信感はさらに強まると見られています。

以前の記事にも書きましたが、ここ数年イラクは雨季の雨量減少とそれに伴う夏場の水不足が深刻化しています。

今年もほとんどまとまった雨が降っていないことから、人々は雨が降るのを心待ちにしていました。

しかし一度まとまった雨が降るとそれは豪雨となり、洪水を引き起こすほどの勢いに。

雨を切望する気持ちとその脅威を恐れる気持ち。雨に対する複雑な気持ちが、私もイラクに暮らしていて日々増してきています。

   

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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