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悠久のメソポタミア、イラクでの日々から

牧野アンドレ|イラク

豪雨とともに始まった今年の雨季

アルビル市内で起きた洪水 ©筆者友人提供

アルビルに戻り1週間が経ち、この乾燥した空気にもまた慣れてきました。

いつもしばらく唇のカサカサが治らないのですが、今回は1週間で潤いが戻ってきました。

今回はここイラクと雨について書こうと思うのですが、ちょうどこの記事を書きながら今、外で雨の音が鳴っています。年間降水量が世界的に最も少ない国の一つであるイラクで聴く雨の音は、やはり格別なものです。

今年は日本に一時帰国していたことがあり初雨は逃してしまったのですが、長い夏が終わり、半年ぶりに雨が降った昨年の初雨の瞬間は忘れられません。

人々に雨季の訪れを呼びかけるが如く大きな突風が吹くと、人々が続々と外に出ててきます。その数分後に少しずつ降り始め、人々は半年間たまりきった埃を洗い流す独特の臭いを身体いっぱいに吸い込み、雨の訪れを祝う歌を歌っていました。

厳しい暑さの続く夏の終わり。そして実りへと導く雨季の始まり。年中雨が降る日本にいると感じませんが、イラクに暮らしていると確かに雨のありがたさ、雨が降る喜びを感じます。

ここイラクのクルド自治区では、初雨が様々な伝統とも繋がっています。

例えばたった十数年前まで、まだ土づくりの家があった時には初雨の後に緩くなった土を壁に塗り、本格的に始まる雨季に備えるということをしたり、この時期よく食べられるガチョウも、初雨の後しばらく経ってから食べるということが今もされています。

これは、雨が降った後に水の溜まった池でガチョウが泳ぎ、筋肉引き締まった後が美味しいと言われているからです。

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昨年、同僚宅でいただいたガチョウ料理 ©筆者撮影

またイラクではそこまで主流ではありませんが、シリアやパレスチナ、ヨルダンなどのオリーブが採れる地域では、初雨で埃が洗い流された後に実を収穫するという伝統が今もあります。

  

初雨後に洪水の発生

今年の初雨は10月30日に降り、例年同様人々は暑く長い夏の終わりをお祝いをしていました。現地の友人たちから喜びの動画が送られてきていました。

しかしその直後、雨は豪雨へと変わり、市内で洪水を起こすまでの量になりました。

30日の朝から降り続けた大雨は午後に豪雨となり、特にアルビル市郊外にある国内避難民など低所得者が多く暮らす地域や、一部高級住宅街にも浸水しました。人が活動している時間だったこともあり、洪水が直撃した地域の人は素早く避難できましたが、少なくとも500世帯以上が居住不可能なほど浸水し、車130台が破壊されました。

都市インフラの欠陥が今回の洪水の原因とも見られていることから、クルド自治政府も家や車の修繕を約束。イラク中央政府からも200万ドルの支援金が約束されています。こういった支援は往々にして役人の懐に入って届かない or 届くまで大変時間がかかるということがイラクでは日常茶飯事なので、早く支援が届くことを願っています。

ところでこういった洪水は珍しいことではなく、山脈に近いイラクの北部地域は、雨季にしばしば洪水に見舞われてきた過去があります。

直近では2019年に数日に渡り洪水が発生。幸い死者は出ませんでしたが、農地が流されたり幹線道路が何日にも渡り塞がれたことで大きな経済的な打撃となりました。

過去の記事でも紹介しましたように夏季には水不足が深刻なイラクですが、雨季には一回豪雨になると、夏場に植物が枯れたことで土砂が簡単に押し流されるようになり、洪水の発生へと繋がります。

昨年の雨季にほとんど雨が降らなかったこともあり、「雨が降ることは望ましいが、もう少し天気もペースを考えて欲しいよ」と同僚も冗談交じりに話していました。

  

 

Profile

著者プロフィール
牧野アンドレ

イラク・アルビル在住のNGO職員。静岡県浜松市出身。日独ハーフ。2015年にドイツで「難民危機」を目撃し、人道支援を志す。これまでにギリシャ、ヨルダン、日本などで人道支援・難民支援の現場を経験。サセックス大学移民学修士。

個人ブログ:Co-魂ブログ

Twitter:@andre_makino

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