トルコから贈る千夜一夜物語
トルコでは動物にも「権利」がある? 新たに「動物の権利法」が可決
2021 年 7 月 9 日、トルコ議会は動物愛護法の改正法案を可決しました。動物に関わるこの新しい法律は、「動物の権利法 (Animal Rights Law)」という呼び名で呼ばれるようになります。動物はもはや「モノ」や「商品」ではなく「生きている存在」で「権利」を有するようになります。
もともとトルコには 2004 年に制定された「動物愛護法 (動物保護法)」があります。この法律の制定を受けて、イスタンブールは「猫の街」へと変換を遂げました。以前に「猫の猫による猫のための街」という記事で、イスタンブールに生息するお外猫たちのことをご紹介しました。イスタンブールが特に猫や犬に優しい都市であることは、観光に来られた方ならすぐにお気づきになると思います。
それでもイスタンブールで見られる光景がトルコ全土で見られるわけではありません。自治体によってお外猫やお外犬の扱いに差があったことは事実です。ところが今回可決された「動物の権利法」は、そんな自治体間の差をかなりの程度少なくするものになるのではないかと思います。
この法律の目的ですが、家で飼われているペットとお外猫やお外犬との差をなくし、動物が「モノ」や「商品」としてではなく「生き物」として社会に認められることを目指しています。
「動物の権利法 (Animal Rights Law)」の概要
この法律の概要をまとめてみます。
動物を虐待したり故意に殺したりした場合、これまでは少額の罰金刑が課せられていましたが、これからは「犯罪者」として半年から4年の懲役刑が科されることになります。この懲役刑は、罰金や保釈金などに減刑されることはありません。今後、ペットの虐待という「犯罪」は裁判所で扱われることになります。さらにこうした「犯罪」は犯罪履歴に記録されます。
またこの法律により、動物が虐待されていたり命が危険にさらされたりしているような場合に警察も出動することができます。またブラッド・スポーツ (闘犬、闘鶏) も「犯罪」となり、警察によって加害者または犯罪者が捜査されます。
ペットショップはオンラインでのみ動物を売ることができ、飼い主が見つかるまでは自然な (ケージに閉じ込めない) 環境で飼育することが求められます。
ペットのオーナーは、デジタル ID を持つことが義務付けられ、ペットの飼育を放棄して道路に放置した場合は、1150 ドル相当の罰金刑が課されます。
自治体は、道路に住んでいる犬や猫に引き続き避妊手術を施します。この法律の制定に伴い、「動物愛護基金」なるものが設立され、自治体への定期的な金銭的支援が行われます。各自治体は予算の 1% を動物のために直接取り分けることになっており、動物のためのシェルターや他のサービスを充実させるように求められています。
4 種類の犬のブリーディングが禁止される
今回の法律の可決に伴い、今後ブリーディングが禁止される犬は以下の通りです。ピットブルテリア、ドゴ・アルヘンティーノ、日本の土佐犬、フィラブラジレイロ。
トルコでこれらの犬を売った人には、1 頭につき 11000 リラ (現在のレートで約1300ドル) の罰金が科せられます。すでにこれらの犬を所有している人に関しては、子供たちからは引き離しておくなど安全な環境のもとでは飼い続けることができるということです。
何とイスタンブールのお外ワンコを主役にした映画まである!
以前に、イスタンブールのお外猫たちとトルコ人の心温まる交流を描いたトルコ映画「猫が教えてくれたこと(邦題)」をご紹介しました。そしてなんと、ついにイスタンブールの犬を題材にした映画が出ました! 2020 年に制作された映画「Stray」。こちらは香港出身の映画監督 Elizabeth Lo がイスタンブールのお外犬たちを追ったドキュメンタリー映画です。
日本では未公開だということですが、犬好きの方にぜひ見ていただきたい映画。イスタンブールを猫ではなく犬の視線で見ていただくことができます。ちなみに筆者は無類の猫好きなので...犬に対する愛着はそれほど強くありません。
トルコで日本人男性が動物虐待に関わったという苦い現実
すでにご存じの方も多いと思いますが、イスタンブールの Küçükçekmece 地区に住んでいた日本人男性が 5 匹の子猫を調理して食べたという衝撃的なニュースがトルコで流れました。地域猫として可愛がられていた母猫から 5 匹の子猫を取り上げ、家で絞め殺してオーブンで焼いて食べたのです。今年 (2021年) の 6 月 15 日のことです。
トルコでは、「イスタンブール在住の日本人男性が子猫 5 匹を食べて、罰金刑 + 強制送還」というタイトルで大きく報道されました。近所の人が朝 5 時ごろに子猫をバケツに入れて家に持ち帰っているこの男性を目撃。その後、彼の家から悪臭 (死体のようなにおい) がするので、彼を問い詰めます。彼は「食べてない。警察呼べよ!」と嘘を並べ立てていましたが、結局食べたことを認めて、警察に連行されました。13 万相当の罰金が科され、国外退去となりました。
6 月の時点では、「動物の権利法」がまだ制定されていませんでしたので、この日本人男性が懲役刑に服することはありませんでした。トルコの動物虐待の例として今後も絶えず引き合いに出されることでしょう。ちなみにこの男性は「日本では猫を食べる習慣がある」と笑いながら答えたということです...。同じ日本人として本当に恥ずかしい...。
「動物の権利法」に対するトルコ人の見方
この法律は、動物愛護団体にとっては悲願の達成といえます。とはいえ、法律が制定されただけですぐに動物虐待がなくなるとは思えないという現実的な見方もあります。動物を虐待しているトルコ人を個人的には見かけたことがないのですが、やはりトルコでも弱い者いじめの一環として動物虐待 (とりわけお外に住んでいる犬猫が対象になります) は深刻な問題なようです。
動物虐待はさらに大きな犯罪、つまり人間を傷つけることにつながる第一歩としてとらえられており、こうした法律の制定で動物の権利や命だけではなく、トルコに住む私たちの安全も守られることが期待されています。
とはいえ、この法律は動物園や農場などには適用されません。お外猫やお外犬は恩恵を受けることが予想されますが、確かに動物園の動物たちや農場で飼われている羊・牛・鶏たちの環境は「自然な環境」とは言えません。動物愛護団体などはこうした状況を改善するように引き続き声を上げていくのかもしれません。なお、今回の法律でサーカスは禁止されます。
いずれにしても、「動物の権利法」はこれまでの動物愛護法から一歩も二歩も踏み込んだ内容となっており、お外に住む犬猫たちの環境がさらに良くなることが期待されています。
著者プロフィール
- 木村菜穂子
中東在住歴17年目のツアーコンサルタント/コーディネーター。ヨルダン・レバノンに7年間、ドイツに1年半、トルコに7年間滞在した後、現在はエジプトに拠点を移して1年目。ヨルダン・レバノンで習得したアラビア語(Levantine Arabic)に加えてエジプト方言の習得に励む日々。そろそろ中東は卒業しなければと友達にからかわれながら、なお中東にどっぷり漬かっている。
公式HP:https://picturesque-jordan.com