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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

移民泣かせの滞在許可証とイタリア人が配偶者なら要注意の法改正

昨日ペルージャに降った今年の初雪 2021/11/29 photo: Naoko Ishii

 滞在許可証は、今でこそ郵便局で申請できるようになったものの、かつては警察署の門前に、早朝から長い列に並んで番号札を得て、申請しなければいけませんでした。そして、今も昔も、ようやく申請にこぎ着けた際に、担当者によって判断が異なるために、あらかじめ必要なものを確認しておいたにも関わらず、書類に不備があると言われたり、他の役所にたらい回しにされたりする場合が、少なからずあるようです。

 E U域外出身者であっても、家族がEU市民であれば、その家族であるEU市民同様に、ヨーロッパ連合内で移動したり、居住したり、職を得たりすることができるのは、得られて当然の権利とみなされるようになり、たとえば、わたしのように、イタリア人と結婚して、EU市民、特にイタリア市民の配偶者となった場合には、滞在許可証(Permesso di soggiorno)ではなく、滞在証(Carta di soggiorno)を得られるようになったのは、2007年のことです。この法が施行されて以来、非EU圏出身であっても、配偶者がイタリア人であれば、まずは有効期間が5年の滞在証の発行を受け、5年後も結婚し、同居していれば、永久滞在証を得られるようになりました。こうして、有効期間がかつてに比べて長くなり、必要書類や手数料がはるかに少なくなったのですが、ところが悲しいかな。

 他のお役所仕事、滞在許可証の手続きと同様に、このEU市民の家族としての滞在証についても、残念ながら、法の変更や新たな手続き方法や新たに得られた権利が、警察署などの末端まで伝わらず、こんなふうに、もう14年前から法が変わっているにも関わらず、最近になってさえ、本来は5年間有効の滞在証を得られたはずの方が、警察署、あるいは申請を手助けしてくれる機関が、相変わらず旧法に則って手続きをしようとするために、滞在許可証を申請・取得することになることが、相変わらず絶えないようなのです。そうして、そうなると、より多くの証明書やより高い発行手数料が必要となり、にも関わらず、そうして得られる滞在許可証の有効期間は2年と短い上に、得られる権利も限られてしまいます。

 また、イタリアがこれまでに発行してきたEU市民の家族用滞在証には、大きな問題がありました。他の多くのヨーロッパ諸国で、電子情報が入ったプラスチック製のカードを発行している中、この紙一切れの滞在証では渡航のための有効書類と認められないとして、本当は権利があったにも関わらず、一時帰国していた日本からイタリアに戻る飛行機への搭乗拒否に遭ったり、フィンランドのヘルシンキ空港などで、入国拒否に遭ったりして、大変な思いをされた日本の方が、少なからずいるのです。

 こういう状況の中、また永久に使用できるものであるにも関わらず、紙製であるために保存や携帯にも困ることから、多くの方から警察署などに対して、プラスチック製のカードにしてほしいという要望が出ていました。そうして、おそらくは、イタリアのこの滞在証が紙であるために、入国・搭乗を拒否された人からも、また、偽造が難しくない紙の書類を携帯する旅行客に入国を認めなければいけない受け入れ国からも要望があったためか、なんと今年8月2日からは、イタリア全国で、EU市民の家族用滞在証が、紙製からI Cカードに変更になリました。さらに、現在、非EU圏出身のイタリア人配偶者が所持する紙製のEU市民家族用滞在許可証は、たとえ無期限であっても、2023年8月23日までには、I Cカードに切り替えられなければいけないことになりました。

 ところが、この大勢に関わるであろう新情報が、法の施行から4か月近く経とうとする今になっても、イタリア警察など、直接に滞在許可証や滞在証発行に関わる公的機関のサイトの該当ページに、いまだに記載されていないのです。地方の一部の県警については、この新情報が早くから掲載されているところもいくつかあるのですが、外国人である市民に滞在許可証や滞在証申請のために必要な書類を知らせるイタリア警察サイトの該当ページは、最後の更新がなんと2018年に行われたままです。

 とこんなふうに、人に任せたり、役所の言うことをうのみにしていたり、あるいは、のんびりしていたりすると、法の新たな変更を知らずに手続きする機会を逸したり、本来はあるはずの権利を得られなかったりすることがあるため、イタリアでは要注意です。

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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