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イタリアの緑のこころ

石井直子|イタリア

花びらで描く絵 町を装う聖体祭、スペッロのインフィオラータ

スペッロのインフィオラータ 2016/5/29 photo: Naoko Ishii

聖体の祝日を祝って町を彩る花の芸術

 イタリアでは野山や町に咲く花がことさらに美しい季節です。その花の花びらと植物だけを使って、町の人々が中心街の道路に描く絵や花のじゅうたん、インフィオラータがみごとなので、イタリアばかりではなく、外国からも大勢の人々が見に訪れる町が、ウンブリア州にあります。

 中世の町並みに趣があるスペッロの町です。復活祭の9週間後の日曜日にあたるキリストの聖体(コルプス・ドミニ)の祝日、聖体祭を祝って、スペッロでは町中の人々が協力し、前日の午後から夜どおし作業をして、中心街の1500mの道路を、70以上ものさまざまなインフィオラータ、花のじゅうたんや花で描かれた絵画で、飾っていきます。

 写真は、2016年5月29日にスペッロのインフィオラータを見たときに撮影したものです。聖体の祝日は今年はイタリアでは6月6日なのですが、新型コロナウイル感染拡大を防ぐため、今年のインフィオラータは中止となりました。

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スペッロの町並みとキリストの顔を描いた作品 2016/5/29 photo: Naoko Ishii

 聖体の祝日当日のミサの行列で歩く道に、前の晩に花びらをまき散らしたり、花のじゅうたんを描いたりする慣習はイタリア各地にあり、スペッロでも数世紀前から道路を花を散らして飾る慣習はあったのですが、現在のように芸術的な絵画や美しいじゅうたんを花で描き出すようになったのは、1930年頃で、一人の市民が花びらで描いた絵がすばらしいと他の町人が感嘆して、翌年からそれに倣い、また競うようにして、皆が翌年にはより大きくみごとな絵をと、工夫を凝らしたのが始まりだとのことです。

町じゅうの人々が月日をかけて協力し作り上げていくインフィオラータ

 インフィオラータの準備が集中的に行われるのは、聖体の祝日前の数日間ですが、その準備は数か月前に始まり、大勢の人々が、スペッロやアッシジの町があるスバージオ山や、ウンブリア・マルケのアッペンニーニ山脈の山に出かけて花を摘むのだそうです。聖体の祝日が近づいてくると、スバージオ山の斜面や畑、渓谷などで花摘みが行われ、高齢の女性たちを中心に花びらを色ごとに分けていくなど、町中の老若男女が協力して参加する、大切な祭りとなっています。

 カトリック教会の祝祭行事として行われるため、聖書の場面などを描いた作品が多く、過去から現代まで、著名な作品を再現したインフィオラータもあるのですが、宗教に特にこだわらず、時事問題に想を得て描かれた絵もあります。花びらを使って、こんなにも美しい絵を描き出すことができるのかと、様々に工夫を凝らした花の絵やじゅうたんを見て、感嘆しました。

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子供たちの作品、「ゆるやかなとき」 2016/5/29 photo: Naoko Ishii

 町の子供たちが、自分たちが摘んだ花びらで描いたこの作品、「ゆるやかなとき」(Tempo Lento)では、虹色に包まれた時計を背にしたカタツムリが、時計ばかりがひしめく世界から離れ、風景が美しい花の中を歩いていっています。忙しい、時間がないと、人といっしょに過ごしたり、ゆっくりと休んだり自然に触れたりする余裕をなくしてしまいがちな現代にあって、「時間に縛られずに、もっとゆったりと、自然の中で過ごす時間を持ち、花や山の美しさを楽しみながら生きていこう」と伝えてくれているのではないかと思います。

 来年、2022年は6月19日にスペッロのインフィオラータが予定されているようです。来年こそは再び開催することができて、町じゅうの人々が協力して創り出す美しい花の芸術を、大勢の人々が楽しむことができることを願っています。

参照リンク

- Infiorata di Spello | Infiorate di Spello Corpus Domini

- イタリア写真草子 - 傑作を花で描いて町彩る、Infiorata di Spello

 

Profile

著者プロフィール
石井直子

イタリア、ペルージャ在住の日本語教師・通訳。山や湖など自然に親しみ、歩くのが好きです。高校国語教師の職を辞し、イタリアに語学留学。イタリアの大学と大学院で、外国語としてのイタリア語教育法を専攻し卒業。現在は日本語を教えるほか、商談や観光などの通訳、イタリア語の授業、記事の執筆などの仕事もしています。

ブログ:イタリア写真草子 Fotoblog da Perugia

Twitter@naoko_perugia

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