コラム

ビックテックに対する誤った競争政策がもたらすサイバーセキュリティ問題

2022年12月16日(金)15時22分

日本はマルウェアアプリの実験場と化す? Raman Mistsechka-iStock

<ビックテック(Apple、Google、Metaなど)に対する誤った独占禁止法の適用が引き起こす社会的問題とは......>

健全な市場環境を保つために「競争」は非常に重要だ。企業による活発な競争は消費者のためにより良い商品・サービスが提供されることを約束し、社会的な富の増進に繋がる結果を生み出す。そして、一部の独占的な資本が市場を占有して競争を阻害することを防止するため、それらの影響力を排するための政府による競争政策が求められる。その結果として、極めて影響力が強い企業体に対して独占禁止法(反トラスト法)などの競争政策が適用されることになる

教科書通りの競争政策の建前は上記のようなものだろう。しかし、政府による政治的なイデオロギーに侵された誤った市場介入は、消費者利益を壊滅的に破壊する事態を引き起こすこともある。その政府による政策の失敗作の展示場に並べられる最新の作品はビックテック(Apple、Google、Metaなど)に対する誤った独占禁止法の適用になりそうだ。このような反トラスト法の拡大は、米国でも問題となっており、ヘリテージ財団などの自由主義経済を重んじるシンクタンクから激しい批判にさらされている。

EU委員会のデジタル市場法が引き起こす社会的問題

その失敗の最新の事例はEU委員会が2022年7月に法案提出したデジタル市場法だ。(実際の適用は2023年以降になる見込みである。)この法律はビックテックに対して、自社スマホにおけるサイドローディングを義務付けることで、自社ストアを経由したアプリだけでなく第三者が制作したアプリにも利用を拡大する道を開いた。

同法は競争政策の適用に関するコペルニクス的な転換であった。通常の場合、競争政策は独占企業体が最終消費者の利益を直接的に侵害することによって適用される。しかし、今回の事例は、プラットフォーム事業を展開するビックテックが消費者利益を直接的に侵害しているわけではない。(彼らは最終消費者には無料でDLサービスを提供している)その理論的根拠は、アプリ事業者が強力なプラットフォームに惹き付けられ続けることで、継続的に支配力を拡大するプラットフォーム事業者が技術革新などを怠り、消費者利益を将来的に侵害する恐れに対処するというものだ。

このような新たな発想の政策を導入する際には、当然に従来までには考えられなかった社会問題が生じることになる。

同法適用後の社会問題の一つとして、プラットフォーム企業のアプリ事業者に対するスクリーニング機能の低下によるサイバーセキュリティ問題が指摘されている。(iPhoneを提供するApple自身が2021年に自ら報告書を公表してリスクを警告しているが、EUはそれらを事実上無視する形で同社にサイドローディングを認めさせた。)

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中国で「南京大虐殺」の追悼式典、習主席は出席せず

ワールド

トランプ氏、次期FRB議長にウォーシュ氏かハセット

ビジネス

アングル:トランプ関税が生んだ新潮流、中国企業がベ

ワールド

アングル:米国などからトップ研究者誘致へ、カナダが
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 2
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 3
    受け入れ難い和平案、迫られる軍備拡張──ウクライナの選択肢は「一つ」
  • 4
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 5
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 6
    【揺らぐ中国、攻めの高市】柯隆氏「台湾騒動は高市…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 10
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 5
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 6
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 7
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 8
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 9
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story