コラム

ビックテックに対する誤った競争政策がもたらすサイバーセキュリティ問題

2022年12月16日(金)15時22分

プラットフォーム企業はサービスの最終消費者に対して漫然とアプリを陳列していたのではない。彼らは自社プラットフォームを通じて最終消費者に提供されるアプリの信頼性についてスクリーニングをかける機能を持っていた。その結果として、粗悪または邪悪なアプリサービスが最終消費者に提供されないようにする役割を果たしてきた。つまり、彼らが行ってきたことは市場独占ではなく品質管理に過ぎないのだ。

主な被害者はPCユーザーであるが、インターネット上には無数のソフトウェアのダウンロードサイトが存在しており、レベルが著しく低いサービスだけでなく、悪質なマルウェアが仕込まれたアプリが提供されている。一部には権威主義国が開発したと見られるスパイウェア機能を持つアプリが過去に確認されており、国家安全保障上の問題を引き起こしかねない類のものまで存在している。

現状でもスマホの機種によってはサイドローディングを有効とし、ビックテックが提供するストア以外からのアプリのダウンロードは可能なものがある。しかし、その機能は一般のユーザーにはほとんど利用されていない。なぜなら、彼らはビックテックが提供するプラットフォーム上のアプリストアで扱われているサービスを信用しているからだ。品質管理による信頼の問題を独占問題という反資本主義的なイデオロギー問題に置き換えることは問題だ。

日本はマルウェアアプリの実験場と化す?

日本でもEU市場法と同様の方向性でビックテックに対する誤った政府介入の議論が進んでいるが、その政策は日本のサービス利用者の利益を決定的に侵害する事態を引き起こすことになるだろう。仮に欧州と同様の法律が日本でも施行された場合、日本のデジタルに不慣れな高齢のサービス利用者などは犯罪集団にとってカモネギそのものだろう。サイドローディングの選択可能なスマホ機種はそれ以外のものよりもマルウェアの被害が多い。果たして、犯罪者しかほぼ喜ばないスマホへのサイドローディングの義務付けに何の意味があるのだろうか。

プラットフォームを提供する事業者の品質管理機能を弱めることで、日本がマルウェアアプリを開発する犯罪集団による実験場と化す恐れもある。それは国家としての危機管理能力の無さを露呈することにもなるだろう。

その一事例として、中国の犯罪組織によって日本の公的機関や大企業であることを偽装する大規模なマルウェアの配布がされたことは記憶に新しい。日本郵政の公式アプリを装ったFakeSpyと呼ばれるマルウェアによるフィッシング詐欺は、その後に他国で横行した類似のフィッシング詐欺の雛形となったと言われている。

冒頭に述べた通り、競争政策には一定の意義があることは間違いない。しかし、その適用は極めて慎重になされるべきであるし、ましてそれが新規の切り口で行われる政策であるなら尚更その弊害は事前に検討されるべきであり、欧州での社会問題の発生状況を十分に見定めてからでも良いだろう。反資本主義的なイデオロギーに安易に踊らされることなく、多面的な観点から消費者利益を守るという本筋に立った議論が望まれる。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

大企業・製造業の景況感が4期連続改善、物価見通し小

ワールド

ベネズエラ、最終的に移行期間と自由・公正な選挙必要

ビジネス

独メルセデス・ベンツ、米アラバマ工場に40億ドル投

ワールド

世界の発電容量に占める再エネ割合、昨年は50%に迫
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イラン恐怖」の正体
  • 4
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 5
    年金は何歳からもらうのが得? 男女で違う「最適な受…
  • 6
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 7
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 8
    韓国・週4.5日労働制が問いかけるもの ──「月曜病」解…
  • 9
    「え、なんで?」フライト中に操縦席の窓が覆われて…
  • 10
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 5
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 6
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 7
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 8
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 9
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 10
    オランウータンに「15分間ロックオン」された女性のS…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story