コラム

2022年中間選挙で赤い波はあった、下院の接戦選挙区に届かなった理由

2022年11月28日(月)14時59分

選挙情勢全体結果を冷静に分析すると、「赤い波は来なかった」という論評自体は間違いである...... REUTERS/Jonathan Ernst

<2022年連邦議会中間選挙の結果は驚きをもって受け止められた。が、選挙情勢全体結果を冷静に分析すると、「赤い波は来なかった」という論評自体は間違いである......>

2022年連邦議会中間選挙では、連邦上院は民主党が過半数の議席維持、連邦下院は共和党が僅差で過半数奪還という結果になった。事前の下馬票では、少なくとも下院では共和党大勝が予測されてきただけに、この結果は驚きを持って受け止められた。
 
選挙直後のメディアでは、Red Wave(赤い波)は来ず、というストレートニュースが踊り、共和党が事前予測通りに十分な議席を確保することができなかったことに関して様々な分析が試みられてきた。

選挙区見直しが行われた影響は極めて大きかった

しかし、選挙情勢全体結果を冷静に分析すると、「赤い波は来なかった」という論評自体は間違いである。むしろ、赤い波は実際には来ていたが、過半数確保に向けた重要選挙区にはその波が届かなかったと評するべきだろう。
 
直近4回分の連邦議会中間選挙(下院)の民主党・共和党の総得票数は下記の通りとなっている。
 
(2022年)民主党50,998,469、共和党54,218,158(11月28日現在)
(2018年)民主党60,572,245、共和党50,861,970
(2014年)民主党35,624,357、共和党40,081,282
(2010年)民主党38,980,192、共和党44,829,751    
(2006年)民主党42,338,795、共和党35,857,334
 
Election Statisticsによると、2010年、2014年はオバマ大統領に対して共和党が反対政党として優位を確保しており、ブッシュ・トランプ政権下の2006年と2018年連邦議会中間選挙では真逆の選挙結果となっている。特に2018年は投票率が高く反トランプの青い大津波が起きたと言ってよいだろう。(2018年では共和党は上院でも勝てるはずの選挙区を十分に奪えなかった)

では2022年はどうだろうか。Cook Political Reportによると、11月28日現在までの集計結果(2022 National House Vote Tracker)では、共和党が民主党に対して総得票数で約300満票の優位を形成している。つまり、2018年を除く、他年と比べて相対的に高い投票率を記録した上で、赤い波は来ていたことになる。
 
しかし、問題は「何故、総得票数の差が議席数の差として十分に現れなかったのか」ということにある。その原因は選挙区割り見直しによるゲリマンダーとトランプ前大統領の負の影響にある。巷で論じられていたように中絶問題なども争点の一つとして存在していたが、それは選挙全体の構造や構図の問題に比べれば些細な論点に過ぎないものだ。
 
2022年連邦議会中間選挙の前提として、10年に1度の国勢調査に基づく選挙区見直しが行われた影響は極めて大きかった。この選挙区見直しは非常に曲者であり、民主党・共和党の両党が自党(≒現職)にとって有利な線引きを行う(ゲリマンダー)ために死力を尽くすイベントとなっている。

赤い波が狙った接戦選挙区に届かない構造になっていた

その激しい攻防の結果として、近年では選挙結果の勝敗が不明な中間的選挙区は減少の一途を辿っており、2022年時点では下院選挙区の9割弱は事前に本選の勝敗がついている。つまり、下院過半数獲得に実際に影響する選挙区は極めて限定されており、その他の大半の選挙区は政党の議席変動とは無関係の選挙となっている。
 
特に2022年のゲリマンダーは裁判闘争などを経て特殊な経過を辿っており、共和党は民主党との選挙区割りの見直しの綱引きで極めてディフェンシブな選挙区割りを行う状況となった。そのため、共和党側は現有選挙区を徹底的に固めた上で、民主党が有する議席の一部を奪うことで下院過半数を得る手堅い戦略を採用せざるを得なかった。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

過度な為替変動に警戒、リスク監視が重要=加藤財務相

ワールド

アングル:ベトナムで対中感情が軟化、SNSの影響強

ビジネス

S&P、フランスを「Aプラス」に格下げ 財政再建遅

ワールド

中国により厳格な姿勢を、米財務長官がIMFと世銀に
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みんなそうじゃないの?」 投稿した写真が話題に
  • 4
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 7
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 10
    インド映画はなぜ踊るのか?...『ムトゥ 踊るマハラ…
  • 1
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ海で「中国J-16」 vs 「ステルス機」
  • 4
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 5
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 9
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
  • 10
    数千円で買った中古PCが「宝箱」だった...起動して分…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story