コラム

党内左派の圧力に苦慮するバイデン政権の悲惨な未来

2021年11月26日(金)15時15分

バイデン政権は民主党左派が推進する政策によって自縄自縛の状態に陥っている REUTERS/Kevin Lamarque

<民主党左派の政策は経済、文化、安全保障などの様々な面でバイデン政権を苦境に立たせ、来年の中間選挙での敗北への道を整備しつつある>

バイデン大統領が米投資大手カーライルグループの共同創設者であるデービット・ルーベンスタインが保有する 13,000平方フィートのメインホーム、テニスコート、プールがある島での休暇に旅立つ一方、善良な米国民の食卓では感謝祭用の七面鳥の値上がりが話題となり、米国民の日々の暮らしはエネルギー価格を中心としたインフレ圧力に苦慮している。

バイデン大統領の優雅な休暇を邪魔しているのは、民主党内の左派勢力が推進している政策だ。民主党左派の政策は経済、文化、安全保障などの様々な面でバイデン政権を苦境に立たせ、来年の中間選挙での敗北への道を整備しつつある。

バイデン政権が進める自国のエネルギー産業の将来性を奪う愚策

高騰するエネルギー価格の直接的な原因は、世界経済の急激な景気回復とOPECのコロナ収束に対する厳しい見通しの背反によるものだが、民主党左派が推進する化石燃料に対する環境規制による影響も少なくない。トランプ時代には米国はエネルギー純輸出国にまでなったものの、バイデン政権は自国のエネルギー産業の将来性を奪う愚策を推し進めている。

直近の原油価格は1バレル75~85ドル前後で推移しており、本来であれば米国内のシェールオイル・シェールガスなどの採算が十分に立つ価格である。しかし、民主党が推進する厳しいCO2規制は米国内でのシェール産業の投資を委縮させ、OPECに対する増産圧力を弱体化させている。

バイデン政権は中国や日本などの消費国に対して戦略備蓄放出を迫ったが焼け石に水であり、OPECは増産見直しを誘発する可能性すらある。本当に外交努力で問題を解決するならイランとの再核合意などが有効だが極めて困難な道だろう。むしろ、再核合意を目指す左派的な外交方針はサウジアラビアなどとの関係悪化を招くため、産油国とのエネルギー価格を巡る交渉を一層困難なものにしている。

また、左派が推進する巨額のインフラ投資政策は、米国内での需給関係のバランスを悪化させるため、米国内のインフレ圧力は益々強まることになるだろう。景気対策・社会福祉政策として実行されるはずのインフラ投資「ビルドバックベター」政策が国民生活を今よりも厳しい状況に追い込むことは皮肉だ。

バイデン政権が取り得る2つの政策

バイデン政権が状況打開のために取り得る政策は、中国からの輸入関税解除とFRBの利上げである。しかし、そのいずれも来年の中間選挙の敗北を招く可能性がある。

2022年中間選挙の上院選挙の接戦州はラストベルトと南部国境地帯の州である。このうちラストベルトで支持を受けるためには労働組合が支持する保護主義的な政策を継続せざるを得ない。したがって、バイデン政権が行う米中首脳会談は中身がない状態が継続する見通しであり、対中輸入関税解除などの懸案事項も遅々として解決の糸口すら見出せていない。もちろんTPP早期復帰などの政策も不可能であり、クアッドを下敷きにしたサプライチェーンの見直しの枠組みなどを打ち出してお茶を濁すので精一杯だろう。

また、民主党左派が推進する国境管理の軟化は、南部諸州で不法移民の大量流入、犯罪の著しい増加という治安問題を引き起こしている。民主党左派が掲げるポリコレ的な人権問題に関する主張が現実の脅威にさらされている南部で支持を失うことは明白であり、既にアリゾナ州などの民主党の南部諸州の現職上院議員は支持率の悪化が伝えられている。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円が軟化、介入警戒続く

ビジネス

米国株式市場=横ばい、AI・貴金属関連が高い

ワールド

訂正-ゼレンスキー氏、和平案巡り国民投票実施の用意

ワールド

イスラエル、ソマリランドを初の独立国家として正式承
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 6
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 7
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 8
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 9
    赤ちゃんの「足の動き」に違和感を覚えた母親、動画…
  • 10
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 6
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 7
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story