コラム

バイデン政権のサプライチェーン見直し計画は、対中国戦略かつ国内選挙対策

2021年05月14日(金)16時30分
バイデン大統領

サプライチェーンの見直しの最優先項目は「半導体」 REUTERS/Kevin Lamarque

<バイデン政権によるサプライチェーン見直しは、対中国の経済政策であり、国家安全保障政策であり、そして選挙対策にもなっている>

2021年2月26日バイデン政権は「サプライチェーンに関する大統領令」を発令し、100日以内に「半導体」「電子用バッテリー」「レアアース」「医薬品」などに関するサプライチェーン計画を策定することを決定した。したがって、遅くとも来月初めには大規模な計画の発表があることが予測される。

「敵」が定まると、徹底した物量戦略をとる米国スタイル

この計画は経済政策担当大統領補佐官だけでなく、国家安全保障問題担当大統領補佐官が共同まとめ役となっていることから、その位置づけが国家安全保障政策としてのものであることが明確となっている。

通常の場合、米国政府は自由経済・自由市場を重んじているものの、国家安全保障として一度認識された分野に関しては妥協無く惜しみない投資を行う特徴がある。

その投資がアフガンや中東における不毛な戦争に約600兆円を費やす馬鹿馬鹿しい行為に繋がることもあれば、インターネットの前身の開発に繋がるイノベーションを起こすケースも存在している。

そして、一度「敵」が定まった場合、その「敵」に対して徹底した物量戦略で押しつぶす米国スタイルは常に変わることはない。

「敵」は中国、最優先は「半導体」

今回の「敵」は言うまでもなく中国である。中国は事実上の国家資本主義国であり、中国共産党が重点を置く製造業に関して巨額の資金を投じる点において、米国にとって競争相手として不足ない存在だ。結果として、米国側が対抗上つぎ込む予算もその数字の桁が跳ね上がることは必然と言える。

サプライチェーンの見直しの最優先項目の1つは「半導体」である。

SIA(半導体工業協会)によると、米国は世界における半導体製造12.5%に対し、アジア圏は80%程度を占めており、米国の製造力面での劣後は著しい状況となっている。これは米国の国家安全保障にとって由々しき問題である。

バイデン政権は、2020年に可決した半導体産業を振興する2つの法案を背景とし、2012年3月末に発表したインフラ投資法案に半導体産業のための巨額予算を盛り込み、4月中旬にはホワイトハウスで半導体の需要者・供給者を一堂に会する半導体サミットを開催した。また、初の対面首脳会談となった日米首脳会談でも半導体のサプライチェーンの見直しは露骨に強調されるものとなった。

したがって、半導体振興に関する予算は鰻登りとなっている。巨額の予算が付くということは、それは同時に巨大な利権が生み出されることになる。

プロフィール

渡瀬 裕哉

国際政治アナリスト、早稲田大学招聘研究員
1981年生まれ。早稲田大学大学院公共経営研究科修了。 機関投資家・ヘッジファンド等のプロフェッショナルな投資家向けの米国政治の講師として活躍。日米間のビジネスサポートに取り組み、米国共和党保守派と深い関係を有することからTokyo Tea Partyを創設。全米の保守派指導者が集うFREEPACにおいて日本人初の来賓となった。主な著作は『日本人の知らないトランプ再選のシナリオ』(産学社)、『トランプの黒幕 日本人が知らない共和党保守派の正体』(祥伝社)、『なぜ、成熟した民主主義は分断を生み出すのか』(すばる舎)、『メディアが絶対に知らない2020年の米国と日本』(PHP新書)、『2020年大統領選挙後の世界と日本 ”トランプorバイデン”アメリカの選択』(すばる舎)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

ドル155円台へ上昇、34年ぶり高値を更新=外為市

ビジネス

エアバスに偏らず機材調達、ボーイングとの関係変わら

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想上回り3カ月連続改善 

ワールド

イラン大統領、16年ぶりにスリランカ訪問 「関係強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story