コラム

日本の将来を担う医師の卵が海外流出...「ブレインドレイン」を防げ

2024年08月27日(火)20時19分
トニー・ラズロ(ジャーナリスト、講師)
医師への狭き門を目指す医学部生たち

KOKOUU/ISTOCK

<海外で医師になることを目指す日本人学生が増えている。日本も外国人医師に道を開かなければ将来的な医師不足に陥りかねない>

やっぱり医師になりたい──。知人の大学生が夢を熱く語っていた。ただ、彼は英文学の学士号を取るために進学したばかり。文系学生が医者になるなんて果たして可能なのか?

そんな疑問に彼はこう答えた。「日本では難しいから海外に行く」

志が高いのはいいが、誰でも医師になれるわけではない。日本の国公立大学の医学部における偏差値は65前後で、抜群の学力が必要だ。さらに親の経済力も問われる。



国公立大学の学費は6年間で平均350万〜400万円。私立なら10倍近くになるという。医学部入試、不断の学習、国家試験合格、初期臨床研修、専門研修......。

この全てをクリアして一人前の医師になれる人は、恵まれた学力と経済力を持ち合わせた稀有な人で、ほぼ限られた境遇の人だけだろう。日本は人口1000人当たりの臨床医密度は約2人で、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で下位に沈む。

地方では特に医師不足が深刻で、休みなしで働き、時間外労働が過労死ラインの月平均80時間を大幅に超える医師は少なくない。100日間連続勤務で時間外労働が月200時間を超え、過労死に追い込まれたケースもある。もちろん、医師不足は何も日本だけの問題ではなく、高齢化する多くの先進国の共通課題だ。

アメリカでは2034年に医師が12万人以上も不足する見込みで、複数の州は積極的に海外の医師を受け入れるための規制緩和に動いている。イギリスでは今年、インド出身の医師約2000人を研修医として受け入れる方針を表明した。

一方で、超高齢化社会を迎える日本では、いまだにこうした本格的な対策は見られない。そうしたなか、海に進学して医学の勉強ができないかと模索する日本人が出てきている。

海外といえば、オックスフォードやケブリッジなどの名門を連想するかもしれない。だが、知人はハンガリーやブルガリア、イタリアなどEU圏に目を向ける。

例えばハンガリーでは、英語で受講可能なコースを提供する4つの大学から卒業した日本人の数は、14年度には13人だった。それが近年は30人台で推移し、昨年度は44人と着実に増えている。

なぜか。これらの国は学費や生活費が比較的低い利点がある。医学部を英語で受けられる特別コースがあり、「国家試験に合格したら、EUの好きな国で研修医として働けばいい」(知人)。学費の補助支援制も魅力だ。経済的余裕がないことが認められれば、返済不要の奨学金が支給され、完全に免除されるケースもある。

もちろん、デメリットもある。日本と比べて卒業の難易度が高い傾向にあることだ。万が一、卒業できなかった場合のプランBをしっかり備える必要があるだろう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米債務持続性、金融安定への最大リスク インフレ懸念

ビジネス

米国株式市場=続伸、堅調な経済指標受け ギャップが

ビジネス

NY外為市場=ドル上昇、米景気好調で ビットコイン

ワールド

中国のハッカー、米国との衝突に備える=米サイバー当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 2
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 3
    北朝鮮は、ロシアに派遣した兵士の「生還を望んでいない」の証言...「不都合な真実」見てしまった軍人の運命
  • 4
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 5
    ロシア西部「弾薬庫」への攻撃で起きたのは、戦争が…
  • 6
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」…
  • 7
    「このまま全員死ぬんだ...」巨大な部品が外されたま…
  • 8
    プーチンはもう2週間行方不明!? クレムリン公式「動…
  • 9
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱…
  • 10
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 3
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 4
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 5
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋…
  • 6
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対す…
  • 7
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 8
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 9
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 10
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    寿命が延びる、3つのシンプルな習慣
  • 4
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大き…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 7
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 10
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story