原発処理水をめぐる日本政府の「意図的な誤訳」...G7首脳陣は「放出」が「不可欠」とは言っていない
KIM KYUNG HOONーREUTERS
<「なぜ誤訳を修正しないのか」──何度も尋ねたが、いつも回答は同じ>
福島第一原子力発電所の事故からそろそろ12年半がたつが、いまだにたびたび一面のニュースになる。最近は、汚染水を多核種除去システム(ALPS)で処理した「処理水の海への放出」についての記事が多い(写真は処理水関連施設と作業員)。私は10回ほど同原発で取材したが毎回、ALPS処理水の課題を取り上げた。
最近の訪問は7月21日で、処理水の放出設備を視察しながら詳しい説明を受けた。大変興味深く、そのときの情報や海外の専門家の見解を聞くと危険性のある仕組みとは思わない。それでも実際にどう運営されるか分からないので、記者として「安全だ」あるいは「安全でない」とは断言できない。ただ、安心できない国民や漁業組合の意見は無視できないだろう。漁業組合に30~40年にわたってお金を配れば「理解を得られる」と政府が思ったら、大間違いだ。
海への放出が科学的に安全で、環境や人間に悪影響がないなら、どう説明すればみんなの納得につながるのか。残念ながら、政府が国民にいくら説明しても通じないと私は思う。東京電力もそうだ。過去に発表した間違った情報などのせいで、政府と東電の信憑性が問われているからだ。
国際原子力機関(IAEA)の手を借りて説明することは必要だが、それでは全く足りない。幅広い分野からの、信頼性の高い第三者のチェックが欠かせない。しかも、政府が完全に間違っている点がある。G7の国々を利用して、日本国民の納得を得ようとする試みだ。
G7広島サミットの首脳コミュニケ(声明)の英語原文には、処理水についてこうある。「われわれは、多核種除去システム(ALPS)処理水の放出がIAEAの安全基準と国際法に合致して実施され、人体や環境に害を及ぼさないことを確実にするために、IAEAによる独立した審査を支持する。それは福島第一原発の廃炉と福島県の復興にとって不可欠だ」
日本政府はこれを日本語の仮訳でこう書いた。「我々は、同発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS)処理水の放出が、IAEA安全基準及び国際法に整合的に実施され、人体や環境にいかなる害も及ぼさないことを確保するためのIAEAによる独立したレビューを支持する」
原文では、G7の国々の首脳は「処理水の放出」が「不可欠」と言っていないし、賛同していない。特にドイツは、むしろ反対の立場だ。私が取材した4月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合の記者会見で、ドイツのシュテフィ・レムケ環境相は「放出を歓迎することはできない」とはっきり言った。つまり「同発電所の廃炉及び福島の復興に不可欠である多核種除去システム(ALPS)処理水の放出」という言い方には絶対に賛同していない。