コラム

新しい日本語「やばいンデ」は定着する? それとも「サランパン」に?

2021年09月10日(金)17時41分
トニー・ラズロ
横浜

日本人と外国商人らが行き交う開港された頃の横浜 SEPIA TIMESーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<外来語に由来する「新しい日本語」は古くから存在するが、今では通じないすたれてしまった言葉も少なくない>

本来「危険」や「不都合」を表す言葉、「やばい」。ずいぶん前から「楽しい」「面白い」「かわいい」「おいしい」などの意味を持つようになってきたこの言葉は、日常会話で使われ過ぎているせいか、ちょっと工夫をしたくなった人がいたようだ。そして誕生した表現が、「やばいンデ」。すぐに意味が分からなくても、無理はない。

「ンデ」は「~なんだけど」「~なのに」「~なんだよ」などを意味する韓国語だ。単なる「やばい」では物足りない、またはいくぶん強調したいときに「やばいんだよ」として「やばいンデ」が使われ始めている。

逆に、韓国語の単語に日本語の語尾がくっついてしまうケースもある。「チンチャそれな」がそれだ。「チンチャ」は「本当・真実」を意味する韓国語で、それに日本語の「それな」が味付けとして語尾に加わった感じ。「本当にそうですね」といった意味だ。

ちなみに「それな」は「そうだよ」の言い換えで、相手の言ったことに対して深い同意を表すこともあれば、相手の話をひとまず肯定して話を終えたいときにも使われる。まだ辞書に載っていない、比較的新しい日本語だ。

いずれの表現も、日韓両方の言語をある程度理解できる若いエンターテイナーが使い始めたもの。そこから、若者たちの間で徐々に広まっている。

今まで定着した外来語は似た道のりを歩んできたのだろう。例として、英語のトラブルに由来する「トラブる」や、フランス語のサボタージュに由来する「サボる」、さらに日本語とポルトガル語が組み合わさった「雨合羽」(合羽=Capaはポルトガル語で外套の意)もある。

これらは国の政策としてロングランになったわけではなく、日本人が代々使うので、生き続けている。

短命に終わる流行語も少なくない

気になるのは、同じくトレンディーキーワードとして登場しつつも、比較的早く姿を消してしまうケースだ。

例えば、「壊れた」を意味する「サランパン」。今から約140年前に、開港されたばかりの横浜、神戸、長崎などの港で、日本人と外国商人との間で使われた。「ボート、サランパン」「馬車、サランパン」という具合に。

当時、このサランパンが通じていたという記録があり、今もなお一部の国語辞典には、「壊れた」という意味として載っている。でも、明治半ばの書物以外の記録が少ないことを見れば、比較的すぐ使われなくなったことが分かる。

近代化していくなかで、日本人は珈琲(コーヒー)や瓦斯(ガス)などを受け入れたが、このサランパンに対してはノーと言った。だから、死語の山に積まれ、一部の歴史家や言語学者にしか意識されなくなった。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=円、対ユーロで16年ぶり安値 対ドル

ビジネス

米テスラ、新型モデル発売前倒しへ 株価急伸 四半期

ワールド

原油先物、1ドル上昇 米ドル指数が1週間ぶり安値

ビジネス

米国株式市場=続伸、マグニフィセント7などの決算に
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 6

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 9

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 10

    ロシア、NATOとの大規模紛争に備えてフィンランド国…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 7

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 8

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 9

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story