コラム

漢方薬がコロナに効く...かは分からないが、日本の漢方は世界で人気です

2021年09月02日(木)16時45分
周 来友(しゅう・らいゆう)
日本の薬局

日本の薬局でも漢方薬や漢方を取り入れた薬はお馴染み JEFF GREENBERGーUNIVERSAL IMAGES GROUP/GETTY IMAGES

<漢方は本来、日本人にとっても身近なはずだが、正しく理解されていない。医師の9割が処方しており、市販薬にも沢山あるのに...。中国を除く世界の漢方薬市場では8割が日本製なのに...>

7月末に気になるニュースがあった。漢方薬の普及を目指す世界中医薬学会連合会のフォーラムで、新型コロナウイルスの治療に西洋医学と中医学(日本の漢方医学に相当する)を併用するという計画が示されたのだ。

両者を組み合わせることで効果を最大限に引き出す、という考えに基づく。

実は、中国ではこれまでもコロナの治療や感染予防に漢方が使われてきた。私は医者ではないので正確な評価はできないが、漢方にはコロナの重症化を防ぎ、治癒率を高める効果があると中国では考えられている。

そう聞いて驚く日本人は少なくないだろう。え、漢方が効くの? そんな声が聞こえてきそうだ。

本来、漢方は日本人にとっても身近なはずだが、正しく理解されていないために「何やらうさんくさい」というイメージも付きまとう。日本の漢方を取り巻く環境が時代とともに変わってきたからだろう。

5~6世紀頃に中国から伝わった中医学は、その後日本で独自の発展を遂げた。

しかし、江戸時代にはオランダから西洋医学が伝来。明治に入ると、政府が積極的に西洋医学を導入するようになる。それに伴い、この伝統医学(江戸中期、オランダから伝わった「蘭方」に対し、「漢方」と呼ばれるようになった)は徐々に廃れていった。

ところが、生活習慣病が蔓延するようになると、今度は西洋医学の限界が見え始め、漢方が再び脚光を浴び始めた。

今では294処方が国に承認され、そのうち148処方は医療保険が適用される医療用漢方製剤だ。2011年の日本漢方生薬製剤協会の調査によれば、医師の9割が漢方薬を処方しているという。

こうした歴史や医療現場の実態を知らなかったとしても、風神のキャラクターで知られる改源、匂いが強烈な正露丸(ちなみに、日露戦争の際に「忠勇征露丸」として商品化されたのが始まり)、のど飴で有名な龍角散などにお世話になってきた人は多いだろう。どれも漢方が取り入れられた市販薬だ。風邪薬の葛根湯も昔から根強い人気がある。

驚くべきことに、正露丸や葛根湯は漢方の本場・中国でも使っている人が少なくない。「日本の漢方薬はよく効く」と信頼が寄せられている。

実際、中国を除く世界の漢方薬市場では8割が日本製だ。ツムラなど日本の漢方メーカーの努力のたまものとはいえ、漢方薬の原料となる生薬はほとんどが中国産なのに。中国人からは「恥ずかしい」との声も上がる。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

豪が16歳未満のSNS禁止措置施行、世界初 ユーチ

ワールド

ノーベル平和賞受賞マチャド氏の会見が中止、ベネズエ

ワールド

カンボジア高官「タイとの二国間協議の用意」、国境紛

ワールド

メキシコ、9日に米当局と会談へ 水問題巡り=大統領
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【クイズ】アジアで唯一...「世界の観光都市ランキング」でトップ5に入ったのはどこ?
  • 3
    中国の著名エコノミストが警告、過度の景気刺激が「財政危機」招くおそれ
  • 4
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 5
    「韓国のアマゾン」クーパン、国民の6割相当の大規模情…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「1匹いたら数千匹近くに...」飲もうとしたコップの…
  • 8
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    ゼレンスキー機の直後に「軍用ドローン4機」...ダブ…
  • 1
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 4
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 5
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
  • 6
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 7
    ホテルの部屋に残っていた「嫌すぎる行為」の証拠...…
  • 8
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%…
  • 9
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 10
    【クイズ】アルコール依存症の人の割合が「最も高い…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story