コラム

「部外者」には分かりにくい、日本の見えないマナー違反

2020年02月22日(土)15時40分
李 娜兀(リ・ナオル)

日本のルールのなかには理解できないものが結構ある METIN AKTASーANADOLU AGENCY/GETTY IMAGES

<明文化されていないルール、マナーを守ることは、その文化や習慣の外側で暮らした人にとってはなかなか難しい>

日本社会のルールやマナーについて考えるとき、よく思い出すのが十数年前、東京都内の混み合った電車に夫と2人で乗った時の出来事だ。

「電車に乗ったらリュックを下ろすのが常識だろう!」。男性の怒鳴り声がすぐそばで聞こえ、そちらを向くと、怒られていたのは夫だった。慌てて背負っていたリュックを下ろした夫は申し訳なさそうに「すみません」を繰り返した。

首都圏で暮らす人にとって、満員電車にかばんを背負ったまま乗らないというのは「常識」だ。ただ、うっかり者の夫にも多少の言い分はある。九州で生まれ育ち、社会人になっても地方勤務が長く、この時はまだ都心に向かう通勤電車に乗り始めて数日という時期だったのだ。都会暮らしの常識が身に付いていなくても仕方がない、と言えなくもない。

電車から降りた後、そう言い訳をする夫を見ながら「日本生まれの日本人でもマナー違反で怒られるのだから、外国人はなおさら大変だ」と思ったものだ。

それでも満員電車でのかばんの持ち方は、マナーとしては、分かりやすいほうだ。もっと怖い「見えないライン」もある。これは家族と共に日本に来た韓国人の知人女性から聞いた話だ。

小学生の子供の母親同士の集まりがあって誰かの家に呼ばれた時のこと。お茶菓子が出され、おいしかったので知人は深く考えず次々に何個も食べた。ふと気付くと、そんなに食べたのは自分だけで、ほかのお母さんたちからは、どこか冷ややかな視線が向けられていた。「大変な欲張りだと思われたに違いない」と、とても恥ずかしい思いをしたという。

それを聞いて私も注意して見るようになったが、確かに多少あらたまった席では、日本では周囲のペースを見ながら遠慮がちに1つか2つ、取る人が多い。

私にとっては、テーブルに置かれた食べ物を周囲に合わせて自制するという感覚そのものが理解しにくい。ホストが食べ物を並べるのはたくさん食べてくださいという意味で、あとは人によって食べる量が違っても当然だと思ってしまう。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

EU、Xに1.4億ドル制裁金 デジタル法違反

ビジネス

ユーロ圏第3四半期GDP、前期比+0.3%に上方修

ワールド

米、欧州主導のNATO防衛に2027年の期限設定=

ビジネス

中国の航空大手、日本便キャンセル無料を来年3月まで
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 2
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させられる「イスラエルの良心」と「世界で最も倫理的な軍隊」への憂い
  • 3
    高市首相「台湾有事」発言の重大さを分かってほしい
  • 4
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 5
    「ボタン閉めろ...」元モデルの「密着レギンス×前開…
  • 6
    左手にゴルフクラブを握ったまま、茂みに向かって...…
  • 7
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 8
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 9
    「ロシアは欧州との戦いに備えている」――プーチン発…
  • 10
    主食は「放射能」...チェルノブイリ原発事故現場の立…
  • 1
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 2
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体を東大教授が解明? 「人類が見るのは初めて」
  • 3
    戦争中に青年期を過ごした世代の男性は、終戦時56%しか生き残れなかった
  • 4
    イスラエル軍幹部が人生を賭けた内部告発...沈黙させ…
  • 5
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 6
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 7
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 8
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 9
    【クイズ】17年連続でトップ...世界で1番「平和な国…
  • 10
    日本酒の蔵元として初の快挙...スコッチの改革に寄与…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 6
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 7
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story