最新記事
IT

なぜイスラエルは「テック大国」になれたのか...戦闘だけではない「徴兵制」に隠された目的とは?

A TECH R&D GIANT

2024年9月11日(水)13時39分
山田敏弘(国際ジャーナリスト)
イスラエルのスタートアップ企業が開発した乗用ドローン

乗用ドローンを開発するイスラエルのスタートアップ企業 AMIR COHENーREUTERS

<日本の四国ほどの面積、常に戦争とも隣り合わせの国が最新ITを牽引する背景には、男性にも女性にも義務づけられた「徴兵制」の存在が──>

今年2月、イスラエルのテルアビブ大学で、最先端AI(人工知能)技術の進化や課題、最新トレンドを議論するイベント「AI Day」が開催された。

【関連動画】イスラエルで開発された「乗用ドローンタクシー」飛行の様子

もともとこのイベントは1週間の日程で行われる予定だったが、昨年10月7日にイスラム組織ハマスが大規模テロを起こし、イスラエルが戦争状態に入っていたために開催が危ぶまれていた。だが、イスラエルのテクノロジー分野はテロに屈服しない、という意思を世界に示すため、1日限定でイベントは開催された。


筆者はこのイベントを取材するためにイスラエルを訪れていた。大学内の講堂で行われたイベントの冒頭には、進行役のテルアビブ大学関係者が「空襲警報が鳴ったら速やかに避難していただく」とステージ上でアナウンスし、戦時下の緊張状態にあることを再認識させた。

ただ、常に戦争と隣り合わせのこの日常こそが、まさに世界のIT業界を支えるテック大国イスラエルの礎になっていると言えるだろう。

ユダヤ人国家であるイスラエルが、世界の名だたるテック企業を牽引していることはよく知られている。

2024年現在の世界的企業の時価総額ランキングを見ると、トップ企業の多くは創業者や経営者がユダヤ系だ。アップル、マイクロソフト、アルファベット、メタ、インテル、オラクルなど、現代の世界を支える企業が名を連ねている。

またユダヤ系企業でなくとも、イスラエルの優れた技術を開発するスタートアップ(新興)企業を買収するなどしてイスラエル発のテクノロジーを獲得している世界的企業も数多い。その規模は22年に総額169億ドルにも上っている。

過去の有名なケースでは、06年に記録媒体で有名なサンディスクがイスラエル企業が開発したUSBドライブ技術を買収している。17年にはインテルが自動運転技術を開発するイスラエルのモービルアイを買収し、大きな話題になった。

時価総額でアップルを抜いて話題になった半導体メーカーNVIDIA(エヌビディア)も今年、AI管理ソフトを開発するイスラエル企業を買収した。

そもそもイスラエルには、有能なテック人材が多い。そのため、世界中の企業が買収を視野にスタートアップに注目しているだけでなく、こぞってイスラエルにR&D(研究開発)の拠点を置いている。

その数は現在、433企業にもなり、マイクロソフトやIBM、インテル、シスコ、クアルコム、シティバンク、シーメンスなど枚挙にいとまがない。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

次期FRB議長の人選、来年初めに発表=トランプ氏

ワールド

プーチン氏、欧州に警告「戦争なら交渉相手も残らず」

ビジネス

ユーロ圏インフレは目標付近で推移、米関税で物価上昇

ワールド

ウクライナのNATO加盟、現時点で合意なし=ルッテ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドローン「グレイシャーク」とは
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 6
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 7
    【香港高層ビル火災】脱出は至難の技、避難経路を階…
  • 8
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 9
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇…
  • 10
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    子どもより高齢者を優遇する政府...世代間格差は5倍…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中