最新記事
紛争

ヒズボラの戦闘員「約10万人」とイスラエルが全面開戦したらどうなる?

DOES ISRAEL HAVE AN ENDGAME?

2024年8月22日(木)15時10分
ダニエル・バイマン(ジョージタウン大学教授)

newsweekjp_20240822033828.jpg

ヒズボラの最高指導者ハッサン・ナスララの動画に大歓声の支持者(ベイルート、8月6日) CHRIS MCGRATH/GETTY IMAGES

レバノンはガザより広い

こうした恐怖に加えて、ヒズボラの攻撃を逃れて北部から避難した6万人のイスラエル人が抱えるジレンマもある。彼らは安全だと確信できるまで故郷に戻らないだろう。

ここでも、昨年10月の奇襲攻撃を考えれば、国境のすぐ向こう側に現実の脅威が存在する限り、市民の安全を保証するのは困難だ。

イスラエルはヒズボラの殲滅、またはヒズボラのリタニ川以北への撤退を目指して戦争に踏み切るかもしれない(リタニ川は06年の衝突後に採択された国連安保理決議1701条で定められたヒズボラの撤退ライン)。


06年の紛争終結後、イランはヒズボラの再武装を支援し、レバノンに再建資金を投入した。

おかげでヒズボラは戦争で破壊された多くのコミュニティーからの支持を勝ち得た。またヒズボラは「国境なき緑」という環境団体を隠れみのにしてイスラエル国境地域に戦闘員を送り込み、安保理決議を骨抜きにした。

イランは現在もヒズボラと緊密に連携しており、イスラエルとの衝突が再燃すれば大規模な財政支援と軍事支援を提供するだろう。

現実問題、イランが4月に仕掛けたイスラエルへの単独攻撃はほぼ失敗に終わっており、イスラエル国境にヒズボラという強力な仲間がいることの価値が再認識された。

加えて、ヒズボラへの武器供給は06年当時より容易になっている。イランと同盟国がイラン、イラク、シリア、レバノンをつなぐ陸路の回廊を支配下に置いているためだ。

本格的な戦争に発展しても、イスラエルがレバノンでの戦闘を長く続けることは難しいだろう。

イスラエル軍は1年近くに及ぶガザ戦争で疲弊しており、予備部品や弾薬、その他の必需品も長期戦を考えれば比較的、不足している。従って、より大規模な戦争になったとしても期間は限定的で、ヒズボラは嵐を乗り切れる可能性が高い。

ヒズボラとしては戦争を長引かせることもできる。

ガザにおけるイスラエルの戦略には、ハマスの戦力を分断して、さまざまな地域を占領し、ハマスの戦闘員を捕らえて組織を壊滅させることも含まれていた。

一方で、レバノンはガザよりはるかに広く、イスラエル軍が短期間で全土に展開することは不可能だ。レバノン南部の一部を再び占領すれば上出来だろう。

イスラエルは1982年にもレバノンに侵攻して南部に駐留したが、小規模な攻撃がやむことはなく、イスラエル側の犠牲者は着実に増えて2000年に撤退を余儀なくされた。

今のヒズボラははるかに手ごわい。どれだけ損害を被ったとしても、軍勢の大部分をいったん国境地帯から引き揚げ、イスラエル軍が撤退したら戻ってくるだけだ。イスラエル軍が駐留を続けた場合も、彼らはゲリラ攻撃を繰り返すだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザで戦争犯罪容

ビジネス

貿易分断化、世界経済の生産に「相当な」損失=ECB

ビジネス

米中古住宅販売、10月は3.4%増の396万戸 

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、4
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 2
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 3
    「1年後の体力がまったく変わる」日常生活を自然に筋トレに変える7つのヒント
  • 4
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッ…
  • 5
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 6
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 7
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 8
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 9
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中