最新記事
キャリア女性

共和党副大統領候補バンスのインド系妻がMAGAに「転向」した理由

Usha’s Not a Mystery

2024年8月10日(土)12時57分
スーザン・マシューズ

米法曹界では、判事の助手(クラーク)になることは、ロースクールを卒業したばかりの学生にとって最も名誉ある経歴の1つだ。下級裁判所判事のクラークシップは連邦控訴裁判所判事のクラークシップへの切符となり、連邦最高裁判所判事のクラークシップへと通じる。

最高裁判事の助手になれば、判事への道が開かれるだけでなく、法律事務所に就職する際も数十万ドルの契約ボーナスが保証される。エール大学法科大学院は、全米で最も強固なクラークシップを擁する。


2010年代の数年間、チュアはクラークシップにおいて強力な人脈を築き、最も熱心に学生を支援する教員の1人として知られていた。米法曹界にはアイビーリーグやコネを重視する風潮がある。しかし、何十年も白人男性にしか与えられなかった権威あるクラークシップに、女性やマイノリティーを斡旋するというチュアの並外れた功績を、当時からほとんどの学生が知っていた。

自宅に学生を集めて夕食会を開き、不透明なプロセスに関する質問にも率直に答えるなど、インクルーシブを実践する存在として、チュアは広く称賛されてきた。実際に多くの学生が、特に1年生は、彼女の授業を受けていなくても助言を求めた。

副大統領夫人を目指して

ニューヨーク・タイムズの記事にあるように、ウーシャもバンスも、「エリートロースクールの典型的なエリートが享受する伝統的な特権や内輪の人脈に縁がなかった」。

そんな2人に、チュアのメンターシップは明らかな恩恵をもたらした。チュアはバンスにベストセラーとなった回顧録『ヒルビリー・エレジー』(邦訳・光文社)を書かせ、皆が憧れるクラークシップにウーシャをつないだ。彼女はロースクール卒業後、現連邦最高裁判事で筋金入りの保守派のブレット・キャバノーがコロンビア特別区控訴裁判所判事だった時代に助手を務め、第1子出産直後にやはり保守派のジョン・ロバーツ最高裁判事の助手を務めた。

2018年にトランプ大統領(当時)がキャバノーを最高裁判事に指名すると、チュアは指名と彼の女性尊重の姿勢をたたえる論説を書いた。その後、キャバノーの女性への性的暴行疑惑が取り沙汰されたが、チュアが支持を撤回することはなかった。

ウーシャの政治観を読み解く上で、このような文脈を考えると、彼女の本当の信念が不透明であることも、それほど混乱させられるわけでもなく、衝撃でもないと思えてくる。彼女は名声と権力を何よりも優先させる世界で育ったのだ。政治的信念や道徳観より優先させると言っても構わないだろう。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ミャンマー地震の死者1000人超に、タイの崩壊ビル

ビジネス

中国・EUの通商トップが会談、公平な競争条件を協議

ワールド

焦点:大混乱に陥る米国の漁業、トランプ政権が割当量

ワールド

トランプ氏、相互関税巡り交渉用意 医薬品への関税も
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジェールからも追放される中国人
  • 3
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中国・河南省で見つかった「異常な」埋葬文化
  • 4
    なぜ「猛毒の魚」を大量に...アメリカ先住民がトゲの…
  • 5
    突然の痛風、原因は「贅沢」とは無縁の生活だった...…
  • 6
    なぜANAは、手荷物カウンターの待ち時間を最大50分か…
  • 7
    不屈のウクライナ、失ったクルスクの代わりにベルゴ…
  • 8
    アルコール依存症を克服して「人生がカラフルなこと…
  • 9
    最古の記録が大幅更新? アルファベットの起源に驚…
  • 10
    最悪失明...目の健康を脅かす「2型糖尿病」が若い世…
  • 1
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 2
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 3
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えない「よい炭水化物」とは?
  • 4
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 5
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 6
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取…
  • 7
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 8
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大…
  • 9
    大谷登場でざわつく報道陣...山本由伸の会見で大谷翔…
  • 10
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中