最新記事
反民主主義

トランプが勝てば危機に瀕する米欧の民主主義

LIBERAL DEMOCRACY HANGS IN THE BALANCE

2024年8月7日(水)10時49分
ヨシュカ・フィッシャー(元ドイツ外相)
民主主義を訴える反極右デモ(ベルリン)

「民主主義は偉大」と訴える反極右デモの参加者(ベルリン、2月) SEAN GALLUP/GETTY IMAGES

ヨーロッパでは、米大統領選でのトランプ勝利を望む極右・民族主義政党が多く、しかも躍進している。アメリカの選択のヨーロッパへの影響を軽視してはならない

リベラルな民主主義の運命が、2024年に大西洋を挟んで行われる2つの選挙で決まることは、しばらく前から明らかだった。6月の欧州議会選と11月の米大統領選だ。

欧州議会選では反EUを掲げる極右政党の圧勝が懸念されていたが、現実にはならなかった。だがヨーロッパでもアメリカでも、リベラルな民主主義が危機に瀕しているという不安は拭い去られていない。


EUは今回の選挙で最悪の事態を免れたが、極右政党はフランスとドイツで大きく躍進した。どちらも経済が最大で政治的に最も重要な2つの加盟国である。

ドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党となり、中道右派のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が第1党を維持。フランスでは極右の国民連合(RN)が第1党となったため、マクロン大統領は国民議会(下院)を解散し選挙に打って出た。決選投票の末、左派連合の新人民戦線(NFP)が最多議席を得たが、過半数には届かなかった。

トランプ勝利が終わりの始まり

議会が空転すれば、フランスは麻痺し、ヨーロッパに致命的な結果をもたらす。ドイツだけでは、より危険な世界で主権を確保するというEUの目標を達成できない。

一方、大西洋の向こうでは政治のハリケーンが発生している。アメリカではバイデン大統領がついに大統領選を離脱し、ハリス副大統領が民主党の後継候補となることが確実視されている。だが世論調査を見れば、共和党の候補者であるトランプ前大統領がホワイトハウスに返り咲く可能性は十分にある。そうなればヨーロッパと、広く西側諸国に大きな影響を与えるだろう。

これは、西側の民主主義を支える中核的な価値観や制度に関わる問題だ。アメリカがリベラルな民主主義から「非リベラル」な方向へ転換すれば、ヨーロッパにはアメリカの変化を称賛する人々が大勢いる。そして、アメリカがヨーロッパの情勢に及ぼす影響力を過小評価してはならない。

第2次トランプ政権は、アメリカをリベラルな民主主義国から、彼が独裁的、権威主義的な衝動を好き勝手に発揮できる国へ永久に変えるためにあらゆることをするだろう。トランプは敵やライバルに寛容さを示さず、三権分立や憲法に全く関心がない。

トランプの勝利を望むのはロシアのプーチン大統領だけではない。全ての極右・民族主義政党も同じだ。彼らは自国にも同様の変化がもたらされることを切望している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

韓国最大野党の李代表に逆転無罪判決、大統領選出馬に

ビジネス

独VWの筆頭株主ポルシェSE、投資先の多様化を検討

ビジネス

日産、25年度に新型EV「リーフ」投入 クロスオー

ビジネス

通商政策など不確実性高い、賃金・物価の好循環「ステ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
特集:まだ世界が知らない 小さなSDGs
2025年4月 1日号(3/25発売)

トランプの「逆風」をはね返す企業の努力が地球を救う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き詰った「時代遅れ企業」の行く末は?【アニメで解説】
  • 2
    【独占】テスラ株急落で大口投資家が本誌に激白「取締役会はマスクCEOを辞めさせろ」
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥ…
  • 5
    「トランプが変えた世界」を30年前に描いていた...あ…
  • 6
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 7
    トランプ批判で入国拒否も?...米空港で広がる「スマ…
  • 8
    【クイズ】アメリカで「ネズミが大量発生している」…
  • 9
    老化を遅らせる食事法...細胞を大掃除する「断続的フ…
  • 10
    「悪循環」中国の飲食店に大倒産時代が到来...デフレ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 3
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山ダムから有毒の水が流出...惨状伝える映像
  • 4
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 5
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 6
    「低炭水化物ダイエット」で豆類はNG...体重が増えな…
  • 7
    「テスラ離れ」止まらず...「放火」続発のなか、手放…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    【クイズ】世界で2番目に「レアアース」の生産量が多…
  • 10
    古代ギリシャの沈没船から発見された世界最古の「コ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛…
  • 5
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 6
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 7
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 8
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 9
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 10
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中