最新記事
性犯罪

日本の家庭や学校・職場で性犯罪が隠蔽される理由

2024年7月25日(木)17時45分
舞田敏彦(教育社会学者)

学校・職場関係者の割合も、警察統計と被害者申告の間でズレがある(前者では9.4%、後者では14.8%)。教師や上司による犯行だろうが、地位関係や報復を憂慮して被害を訴え出にくい。かくして近い間柄による犯行は闇に葬られ、警察統計では「知らない人」による犯行が最も多くなっている。これが現実と隔たっていることを、当局は認識するべきだ。

newsweekjp_20240725042717.png


もっとも、以前に比べたら家族間の性犯罪も事件化されるようになってはいる。2015年から2020年にかけて、家族・親戚による性犯罪の検挙数が増え、全数に占める割合も上がっている<表1>。この期間中に伊藤詩織氏の事件が明るみになったこともあり、性犯罪の検挙(厳罰化)への要望が高まったこともあるだろう。だが先ほどの図でみたように、被害経験者の申告との間にはまだ隔たりがある。

冒頭の事件のように、家庭で苦しんでいる子を救うに際しては、子どもが発する有形・無形の「SOS」を、学校において教師が察知して、警察や福祉へとつなげることが重要となる。また、日本に長く根付いている「家族信仰」を見直すことも必要だろう。子ども関連の施策を一元的に担う「こども家庭庁」ができたが、当初の「こども庁」に家庭の2文字が付されたことには異論もあった。子どもの生活の基盤は家庭で、家庭を単位として権利保障を行おうという意図だが、家庭が善とは限らない。

昭和と時代背景が異なる令和では、子どもを一個人として尊重すること、社会全体で子どもを育てる心構えが求められる。

<資料:警察庁『犯罪統計書』
    内閣府『男女間における暴力に関する調査』(2020年度)

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米バークシャー、アルファベット株43億ドル取得 ア

ワールド

焦点:社会の「自由化」進むイラン、水面下で反体制派

ワールド

アングル:ルーブルの盗品を追え、「ダイヤモンドの街

ビジネス

NY外為市場=ドル、対円で横ばい 米指標再開とFR
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前に、男性が取った「まさかの行動」にSNS爆笑
  • 4
    『トイ・ストーリー4』は「無かったコト」に?...新…
  • 5
    「不衛生すぎる」...「ありえない服装」でスタバ休憩…
  • 6
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 7
    文化の「魔改造」が得意な日本人は、外国人問題を乗…
  • 8
    「水爆弾」の恐怖...規模は「三峡ダムの3倍」、中国…
  • 9
    中国が進める「巨大ダム計画」の矛盾...グリーンでも…
  • 10
    ヒトの脳に似た構造を持つ「全身が脳」の海洋生物...…
  • 1
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 2
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披露目会で「情けない大失態」...「衝撃映像」がSNSで拡散
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「死ぬかと思った...」寿司を喉につまらせた女性を前…
  • 6
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 7
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 8
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 9
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 10
    「イケメンすぎる」...飲酒運転で捕まった男性の「逮…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中