最新記事
南アジア

バングラデシュの止まらない学生デモ

Speaking Against Power

2024年7月23日(火)19時40分
ムバシャル・ハサン(オスロ大学博士研究員)、アーリル・エンゲルセン・ルード(オスロ大学教授)
バングラデシュの首都ダッカ、学生の抗議デモ

首都ダッカで公務員の特別採用枠に抗議する大学生たち(7月4日) HABIBUR RAHMANーABACAーREUTERS

<独立戦争の兵士の子孫に公務員の特別枠、不公平への抗議が与党の強権支配を揺るがす日>

バングラデシュで数万人規模の学生デモが続いている。表向き、抗議の対象は1971年のパキスタンからの独立戦争を戦った兵士の子孫に割り当られた公務員の採用枠だ。

警察や与党アワミ連盟の活動家らからの脅しにもかかわらず、デモは続いている。シェイク・ハシナ・ワゼド首相はデモに対して厳しい態度を崩さず、学生たちの要求には耳を貸そうともしない。


アワミ連盟は独立戦争を主導した政党だ。学生側は、特別枠制度は差別的で、与党寄りの人々の採用につながっていると主張、縁故ではなく実力主義での採用を求めている。

だが、実際には抗議の対象は特別採用枠だけにとどまらない。アワミ連盟は、自分たちは国民に選ばれた代表であり、国を統治する道義的権威を持つと主張している。だがアワミ連盟が政権の座にいられるのは、選挙の実態が自由でも公平でもないからだ。

2009年から続くハシナ政権下でバングラデシュは権威主義国家への道を突き進んでおり、政治指導者への抗議活動を行うのは容易ではない。そこで特別枠という個別の問題が、国民の幅広い不満のはけ口として機能している。

強権主義的な指導者が、国民から情報へのアクセスや不満を表明する場を奪い、反対派を黙らせようとするなかで、特別枠の問題は今や、一種の「民主的ブリコラージュ」として機能しているのだ。

ブリコラージュはもともと、あり合わせのものから何か役に立つものをつくり上げることを指す言葉だ。そして民主的ブリコラージュとは、さまざまな個別のテーマを、それぞれのテーマよりも幅広い政治的、民主的な主張を行う機会として活用することを言う。

リーダーのいないデモ

デモを鎮圧しようとする当局にとって厄介なことに、この抗議運動には頂点に立つリーダーが存在しない。バングラデシュの消息筋によれば、学生たちはメッセージアプリを使って連携しているという。中央から指令や情報が流れるのではなく、学生たちは小さなグループに分かれ、メッセージはグループからグループへとリレーされる。こうすることで、当局の監視を逃れつつ、連絡を取り合うことができるのだ。

一方でバングラデシュではここ数カ月の間に、公務員による深刻な腐敗や違法な富の蓄積のニュースが繰り返し流れた。不正に手を染めたとされるなかには、治安部隊や情報機関の大物も含まれる。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

テスラ、6月の英販売台数は前年比12%増=調査

ワールド

豪家計支出、5月は前月比+0.9% 消費回復

ワールド

常に必要な連絡体制を保持し協議進める=参院選中の日

ワールド

中国、太平洋島しょ地域で基地建設望まず 在フィジー
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 8
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 5
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 6
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中