最新記事
ウクライナ戦争

「なぜ日本が支援?」池上彰と考える、侵攻が続くウクライナと私たちのつながり

2024年7月10日(水)11時00分
※JICAトピックスより転載

ウクライナの歴史や文化、アイデンティティを守るため

池上 まさに思い出まで破壊されてるということですね。ウクライナは言語で言うと、東部ではロシア語を話す人もいるし、西部ではハンガリー語を話す人もいる。言語でもモザイクのような国です。

イーゴル ウクライナ語は、ソ連の一部になったときも含めてこれまで何度も禁止されてきました。意図的にウクライナ人のアイデンティティを消そうとしていたんです。学術の世界や政府機関で勤めるにはロシア語を話せないとキャリアを立てることができず、その影響でウクライナ語を話す人が減っていきました。ウクライナ語を話すことが恥ずかしいという意識さえありました。それが、2013年のユーロ・マイダン革命で、がらっと国民の意識が変わりました。ウクライナの歴史やウクライナ語、アイデンティティを守るために努力しなければいけないと国民が目覚めたんです。

newsweekjp_20240708072344.jpg

2013年にウクライナで起きた市民運動「ユーロ・マイダン」。親ロシア派の政権の崩壊と親欧米の政権設立につながった。「尊厳の革命」とも呼ばれる。写真は首都キーウの独立広場で市民がデモ活動を行う様子。イェブトゥシュク・イーゴルさん撮影

池上 この戦争は、ウクライナの文化をどう守るのか、ウクライナ人としてのアイデンティティを守る戦いでもあるんですね。

イーゴル その通りです。その中で、特に食に興味の高い日本の人々にキーポイントとして強調しているのは、「ウクライナ料理といえば、ボルシチ」だということです。

池上 ボルシチはロシア料理ではない、ウクライナ料理だということですね。実は私も1990年代にキーウの有名な民族料理のレストランに行って、その時にボルシチはウクライナ料理なんだと知りました。

松永 レストランといえば、キーウのレストランのレベルはものすごく高いんです。実は、今キーウをはじめ他の市でも、レストランなどの店は普通に営業しています。もちろん空襲警報があれば避難しますが、ウクライナの人々には、この戦争の中でもできる限り普通の生活をして、ロシアの脅しに屈しないんだという強い意思が見えます。

イーゴル 日常生活の中では、生きているという感覚が持てるのです。今のミサイルがいつでも飛んでくるというのはあり得ない状況でとても危険です。ただそんな中でも、少しでも自分の精神状態を保つためにバリアを作っているのです。

newsweekjp_20240708072907.jpg

松永 秀樹(まつなが・ひでき) JICAウクライナ事務所所長。海外経済協力基金(OECF)から国際協力銀行(JBIC)などを経てJICA。エジプト事務所長、世界銀行、中東・欧州部長を経て2024年1月から現職

将来が見えなくても、子どもたちの未来を築くために

池上 イーゴルさんは、今33歳だそうですね。例えばイーゴルさんが40歳になった時、あるいは50歳になった時、何をしているんだろうと思うことがありますか?

イーゴル この戦争で、未来を考えて計画を立てるということができなくなってしまいました。明日は何が起きるか分からないので、今目の前で起きている戦争を止めるために全力を尽くそうって。目の前のタスクをこなしていくだけになっています。多くのウクライナ人もそう話しています。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエル首相らに逮捕状、ICC ガザでの戦争犯罪

ビジネス

米新規失業保険申請は6000件減の21.3万件、予

ワールド

ロシアがICBM発射、ウクライナ発表 初の実戦使用

ワールド

イスラエル軍、ガザ北部の民家空爆 犠牲者多数
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:超解説 トランプ2.0
特集:超解説 トランプ2.0
2024年11月26日号(11/19発売)

電光石火の閣僚人事で世界に先制パンチ。第2次トランプ政権で次に起きること

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    Netflix「打ち切り病」の闇...効率が命、ファンの熱が抜け落ちたサービスの行く末は?
  • 2
    【ヨルダン王室】生後3カ月のイマン王女、早くもサッカーファンに...フセイン皇太子がインスタで披露
  • 3
    日本人はホームレスをどう見ているのか? ルポに対する中国人と日本人の反応が違う
  • 4
    NewJeans生みの親ミン・ヒジン、インスタフォローをす…
  • 5
    元幼稚園教諭の女性兵士がロシアの巡航ミサイル「Kh-…
  • 6
    ウクライナ軍、ロシア領内の兵器庫攻撃に「ATACMSを…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 9
    習近平を側近がカメラから守った瞬間──英スターマー…
  • 10
    若者を追い込む少子化社会、日本・韓国で強まる閉塞感
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査を受けたら...衝撃的な結果に「謎が解けた」
  • 3
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り捨てる」しかない理由
  • 4
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参…
  • 5
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 6
    アインシュタイン理論にズレ? 宇宙膨張が示す新たな…
  • 7
    沖縄ではマーガリンを「バター」と呼び、味噌汁はも…
  • 8
    クルスク州の戦場はロシア兵の「肉挽き機」に...ロシ…
  • 9
    メーガン妃が「輝きを失った瞬間」が話題に...その時…
  • 10
    中国富裕層の日本移住が増える訳......日本の医療制…
  • 1
    朝食で老化が早まる可能性...研究者が「超加工食品」に警鐘【最新研究】
  • 2
    北朝鮮兵が「下品なビデオ」を見ている...ロシア軍参加で「ネットの自由」を得た兵士が見ていた動画とは?
  • 3
    外来種の巨大ビルマニシキヘビが、シカを捕食...大きな身体を「丸呑み」する衝撃シーンの撮影に成功
  • 4
    朝鮮戦争に従軍のアメリカ人が写した「75年前の韓国…
  • 5
    自分は「純粋な韓国人」と信じていた女性が、DNA検査…
  • 6
    北朝鮮兵が味方のロシア兵に発砲して2人死亡!? ウク…
  • 7
    「会見拒否」で自滅する松本人志を吉本興業が「切り…
  • 8
    足跡が見つかることさえ珍しい...「超希少」だが「大…
  • 9
    モスクワで高層ビルより高い「糞水(ふんすい)」噴…
  • 10
    ロシア陣地で大胆攻撃、集中砲火にも屈せず...M2ブラ…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中