最新記事
能登半島地震

能登半島地震から半年、メディアが伝えない被災者たちの悲痛な本音と非情な現実

REFLECTING THE FUTURE

2024年7月1日(月)10時40分
小暮聡子(本誌記者)

実際、筆者が訪れたある仮設住宅では、子育て中の中年女性から「コミュニティーって、何?」と憤る声を聞いた。避難所で生活しているときから高齢者はまるで「お客様のように」振る舞い、高校生を含めた若者たちに働かせ、陰では文句や悪口ばかり言っている。そのくせ、子供たちからは体育館やグラウンドなどの居場所を取り上げたままでは、「そりゃ若い子はいなくなるわな」。

彼女は声を震わせながらそう言った。「地震よりも怖いのは、人だった。人の汚らしさばかり見てきて、時間がたつほど余計に苦しくなってきた」。テレビがこの地の現状について表面的な報道をしているのを見るたび「腹が立っている」そうだ。


 

奥能登に日本の未来を見る

現在の能登の状況は、決して「被災地」だから起きていることではない。過疎高齢化が進む奥能登は、全国各地の未来を先取りしているにすぎない。今年4月24日、民間の有識者グループ「人口戦略会議」は、全体の4割に当たる全国744の自治体が「最終的には消滅する可能性がある」とする分析を公表した。

2050年までの30年間で20~30代の若年女性人口が半数以下になる自治体を「消滅可能性自治体」とするものだが、この推計によれば今回特に被害が甚大だった能登の6市町(輪島市、珠洲市、七尾市、能登町、穴水町、志賀町)は全て消滅可能性自治体とされる。そして、こうした自治体はほかに全国に738もある。

4月9日には、財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の財政制度分科会の会見で、分科会で能登半島のまちづくりが議題に上がり、「(人口減少が一挙に顕在化したなかで)コンパクト化・集約化は、住民の意向も踏まえながらやっていくべきではないか」との意見があったことが説明された。

震災直後には、「財政難の折に、消滅していく集落のために莫大な国民の税金を投与すべきか否か」という声もネットを駆け巡っていた。

金沢大学の谷内江は「コンパクト化・集約化」に一定の理解を示しつつ、「何かおかしいなという違和感がずっとあるんです。その違和感というのは、集落や市町の在り方をどう捉えるかについて。単に税金を使ってインフラをつくってもらうということではなく、そこに人のなりわいがあるということの建設的な意味がきっとあるのではないか」と語る。

今回の取材では、被災した方から「これからどうしたらいいですか」と聞かれることがたびたびあった。能登だけにこの問いを押し付けることはできない。

谷内江は、石川県の「創造的復興プラン」に付けられた副題を指した。「能登が示す、ふるさとの未来~ Noto, the future of country」。「ふるさと」とは日本のこと。「能登は日本の未来を映し出す」という意味である。

【関連記事】少子高齢化の「漆器の里」を襲った非情な災害――過酷すぎる輪島のリアルから見えるもの

【関連記事】日本が誇る文化財、輪島塗が存亡の危機...業界への打撃や今ある課題は?

20241008issue_cover150.png
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2024年10月8日号(10月1日発売)は「大谷の偉業」特集。【保存版】ドジャース地区Vと初の「50-50」を達成。アメリカは大谷翔平をどう見たか

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら


あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

中朝首脳、国交樹立75年で祝電 関係強化を表明

ワールド

仏大統領、ガザで使用の武器禁輸呼びかけ イスラエル

ワールド

世界各地で反戦デモ、10月7日控え ガザ・中東戦闘

ビジネス

中国住宅販売、国慶節連休中に増加 景気刺激策受け=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大谷の偉業
特集:大谷の偉業
2024年10月 8日号(10/ 1発売)

ドジャース地区優勝と初の「50-50」を達成した大谷翔平をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」の中国が世界から見捨てられる
  • 2
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシア製よりはるかにスマート
  • 3
    野原の至る所で黒煙...撃退された「大隊規模」のロシア軍機械化部隊、密集した車列は「作戦失敗時によく見られる光景」
  • 4
    羽生結弦がいま「能登に伝えたい」思い...被災地支援…
  • 5
    職場のあなたは、ここまで監視されている...収集され…
  • 6
    ロシア兵がウクライナ「ATACMS」ミサイルの直撃を受…
  • 7
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 8
    新NISAで人気「オルカン」の、実は高いリスク。投資…
  • 9
    「核兵器を除く世界最強の爆弾」 ハルキウ州での「巨…
  • 10
    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…
  • 1
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 2
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はどこに
  • 3
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する「ロボット犬」を戦場に投入...活動映像を公開
  • 4
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 5
    アラスカ上空でロシア軍機がF16の後方死角からパッシ…
  • 6
    【独占インタビュー】ロバーツ監督が目撃、大谷翔平…
  • 7
    借金と少子高齢化と買い控え......「デフレ三重苦」…
  • 8
    大谷翔平と愛犬デコピンのバッテリーに球場は大歓声…
  • 9
    NewJeansミンジが涙目 夢をかなえた彼女を待ってい…
  • 10
    米軍がウクライナに供与する滑空爆弾「JSOW」はロシ…
  • 1
    「LINE交換」 を断りたいときに何と答えますか? 銀座のママが説くスマートな断り方
  • 2
    ベッツが語る大谷翔平の素顔「ショウは普通の男」「自由がないのは気の毒」「野球は超人的」
  • 3
    「まるで別人」「ボンドの面影ゼロ」ダニエル・クレイグの新髪型が賛否両論...イメチェンの理由は?
  • 4
    「もはや手に負えない」「こんなに早く成長するとは.…
  • 5
    ウクライナに供与したF16がまた墜落?活躍する姿はど…
  • 6
    漫画、アニメの「次」のコンテンツは中国もうらやむ…
  • 7
    ウクライナ軍、ドローンに続く「新兵器」と期待する…
  • 8
    北朝鮮、泣き叫ぶ女子高生の悲嘆...残酷すぎる「緩慢…
  • 9
    エコ意識が高過ぎ?...キャサリン妃の「予想外ファッ…
  • 10
    キャサリン妃の「外交ファッション」は圧倒的存在感.…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中