最新記事
アフガニスタン

「腐敗した前政権よりマシ」タリバン復権の背景に裁判制度? イスラム法を解釈して短時間で判決

2024年6月24日(月)15時22分
レナード・セクストン(米エモリー大学助教)
「腐敗した前政権よりまし」タリバン復権の背景に裁判制度? イスラム法を解釈して短時間で判決

zmotions - shutterstock -

<アフガニスタンでイスラム主義勢力タリバンの支配が復活してから約3年、統治の多くの側面が変化している。裁判制度も例外ではない>

欧米に倣った旧政権時代の制度は一掃され、地域レベルではタリバンの裁判官がシャリーア(イスラム法)を解釈して短時間で判決を出すようになった。

通常の裁判に求められる法的手続きは未整備で、刑罰も厳しいが、迅速な審理と膨大な積み残し訴訟の解消によって、一定の評価を得ている。腐敗も前政権よりはましだと見なされている。

政権奪還後の統治の多くの側面とは対照的だ。経済の活性化は失敗。過激派組織「イスラム国」(IS)系グループのテロへの対応も鈍い。政府としての基礎的役割を果たせているとも言い難い。

タリバンが地域レベルの争い事にうまく対処できているのは、さまざまな面でもっと単純な以前の時代に戻ったからだ。

反政府勢力として活動していた10年以上前は、旧政権軍やその同盟軍と戦い、バイクに乗ったイスラム法官のネットワークを駆使して地方にシャリーアを受け入れさせるという比較的単純な仕事に集中できた。

私たちの新しい研究では、米軍の増派が終わったこの時期(2011~14年)に焦点を当て、地方への「イスラム法廷」の導入が戦争にどんな影響を与えたかを調べた。

この期間にイスラム法廷が設置された地区と、ほぼ同条件の他地区を比較すると、前者では暴力を伴う民事上のもめ事(土地をめぐる一族間の争いなど)が急減していた。

その結果、タリバンの統治能力に対する人々の評価が大幅に高まり、旧政権への信頼度は低下したと、米政府が収集した調査で報告されている。

地元でタリバンの裁判を目撃した人々は、自分たちのもめ事を旧政権の裁判所ではなくイスラム法廷に持ち込むと答える割合が有意に高かった。

タリバンの蛮行をよく知っている人々がなぜ、彼らの裁判制度を高く評価するのか。第1に、大半がもめ事の直接の当事者ではなく、自分たちの村や町で起きた争いの巻き添えを食った人々だからだ。彼らはタリバンの判決に同意できなくても、問題が解決されたことに感謝の念を抱いた。

第2に、シャリーアに裏打ちされたイスラム法廷のほうが地元の価値観に合っているからだ。ある訴訟の参加者は言った。「残念ながら、私は裁判で負けたが、タリバンの法官に怒りはない。彼らはシャリーアに従って裁く。シャリーアには逆らえない」

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米メーシーズ、第4四半期利益が予想超え 関税影響で

ワールド

ブラジル副大統領、米商務長官と「前向きな会談」 関

ワールド

トランプ氏「日本に米国防衛する必要ない」、日米安保

ワールド

トランプ氏、1カ月半内にサウジ訪問か 1兆ドルの対
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
特集:進化し続ける天才ピアニスト 角野隼斗
2025年3月11日号(3/ 4発売)

ジャンルと時空を超えて世界を熱狂させる新時代ピアニストの「軌跡」を追う

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない、コメ不足の本当の原因とは?
  • 3
    113年間、科学者とネコ好きを悩ませた「茶トラ猫の謎」が最新研究で明らかに
  • 4
    著名投資家ウォーレン・バフェット、関税は「戦争行…
  • 5
    一世帯5000ドルの「DOGE還付金」は金持ち優遇? 年…
  • 6
    強まる警戒感、アメリカ経済「急失速」の正しい読み…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    定住人口ベースでは分からない、東京23区のリアルな…
  • 9
    テスラ大炎上...戻らぬオーナー「悲劇の理由」
  • 10
    34年の下積みの末、アカデミー賞にも...「ハリウッド…
  • 1
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 2
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 3
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天才技術者たちの身元を暴露する「Doxxing」が始まった
  • 4
    アメリカで牛肉さらに値上がりか...原因はトランプ政…
  • 5
    ニンジンが糖尿病の「予防と治療」に効果ある可能性…
  • 6
    「浅い」主張ばかり...伊藤詩織の映画『Black Box Di…
  • 7
    イーロン・マスクの急所を突け!最大ダメージを与え…
  • 8
    「コメが消えた」の大間違い...「買い占め」ではない…
  • 9
    「絶対に太る!」7つの食事習慣、 なぜダイエットに…
  • 10
    ボブ・ディランは不潔で嫌な奴、シャラメの演技は笑…
  • 1
    テスラ離れが急加速...世界中のオーナーが「見限る」ワケ
  • 2
    【一発アウト】税務署が「怪しい!」と思う通帳とは?
  • 3
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 4
    口から入ったマイクロプラスチックの行く先は「脳」…
  • 5
    「健康寿命」を延ばすのは「少食」と「皮下脂肪」だ…
  • 6
    がん細胞が正常に戻る「分子スイッチ」が発見される…
  • 7
    戦場に「北朝鮮兵はもういない」とロシア国営テレビ.…
  • 8
    人気も販売台数も凋落...クールなEVテスラ「オワコン…
  • 9
    細胞を若返らせるカギが発見される...日本の研究チー…
  • 10
    イーロン・マスクへの反発から、DOGEで働く匿名の天…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中