最新記事
フランス総選挙

選挙で台頭の極右政党に、サッカー仏代表の主力黒人選手が反攻──エムバペ、テュラムも

France's Star Athletes Refuse to 'Stick to Sports' Ahead of Elections

2024年6月20日(木)18時36分
ジーザス・メサ

「こうした多様性にフランスの輝かしい未来を見て取る人たちもいる。だが国民連合などの極右は、人口の多数派である白人が代表チームの多数を占めていないことにイラ立ちを募らせている」と、ニューヨーク大学のステファンヌ・ジェルソン教授(フランス研究・歴史)は本誌に語った。

マルクス・テュラムはイタリアの名門クラブ、インテルナツィオナーレ・ミラノの所属で、父親はフランス代表としてW杯優勝に貢献したこともあるリリアン・テュラムだ。現在52歳のリリアンはカリブ海の仏領グアドループ生まれで、マリーヌ・ルペンの父親で国民連合の生みの親でもあるジャンマリ・ルペンを批判し、人種差別と戦ってきた。

 

「テュラムの息子が真っ先に極右に対抗して声を上げたことは意義深い。多様性を擁護し、人種差別と暴力に抗議する政治的系譜がしっかり受け継がれた、ということだ」と、ジェルソンは言う。

6月16日には、元テニス選手のヤニック・ノア、ジョー=ウィルフリード・ツォンガ、アトランタ五輪で活躍した陸上選手のマリー=ジョゼ・ペレクら仏スポーツ界のスターたちが、スポーツ紙「レキップ」の論説ページで、極右の勝利を阻止するために1票を投じるよう有権者に呼びかけた。かつて名ストライカーとして知られたサッカー選手で、現在はフランスの五輪代表チームのコーチを務めるティエリー・アンリも「極端な勢力(の勝利)を防げ」と呼びかけた。

サッカー連盟は政治的発言を禁止

マクロン大統領はアスリートの声明について公式の場では発言を控えているが、スポーツ相は「アスリートたちも声を上げたがっているようだ」と述べ、歓迎の姿勢を示している。

影響力の大きいアスリートが重大な局面で声を上げたと、ジェルソンは言う。ルペン率いる国民連合の支持率が急伸する一方、マクロン率いる与党ルネサンス(再生)党の人気は低迷しているからだ。

「マクロンは苦境に追いやられている。与党は弱く、欧州議会選挙で大敗し、下院選挙でも劣勢が伝えられている」と、ジェルソンは指摘する。

テュラムとエムバペの発言を受けて、仏サッカー連盟はユーロ2024の出場選手に、次期選挙について公の場での発言を慎むよう警告した。フランスの有権者は6月30日に第一回目の投票を行うが、この日には奇しくもユーロ2024の決勝トーナメントの幕が切って落とされる予定だ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インタビュー:トランプ関税で荷動きに懸念、荷主は「

ワールド

UBS資産運用部門、防衛企業向け投資を一部解禁

ワールド

米関税措置の詳細精査し必要な対応取る=加藤財務相

ワールド

ウクライナ住民の50%超が不公平な和平を懸念=世論
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:引きこもるアメリカ
特集:引きこもるアメリカ
2025年4月 8日号(4/ 1発売)

トランプ外交で見捨てられ、ロシアの攻撃リスクにさらされるヨーロッパは日本にとって他人事なのか?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大はしゃぎ」する人に共通する点とは?
  • 2
    8日の予定が286日間に...「長すぎた宇宙旅行」から2人無事帰還
  • 3
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる唯一の方法
  • 4
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
  • 5
    磯遊びでは「注意が必要」...6歳の少年が「思わぬ生…
  • 6
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「…
  • 7
    「隠れたブラックホール」を見つける新手法、天文学…
  • 8
    【クイズ】アメリカの若者が「人生に求めるもの」ラ…
  • 9
    【クイズ】2025年に最も多くのお金を失った「億万長…
  • 10
    トランプが再定義するアメリカの役割...米中ロ「三極…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?
  • 2
    ロシア空軍基地へのドローン攻撃で、ウクライナが「最大の戦果」...巡航ミサイル96発を破壊
  • 3
    800年前のペルーのミイラに刻まれた精緻すぎるタトゥーが解明される...「現代技術では不可能」
  • 4
    ガムから有害物質が体内に取り込まれている...研究者…
  • 5
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
  • 6
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 7
    自らの醜悪さを晒すだけ...ジブリ風AIイラストに「大…
  • 8
    一体なぜ、子供の遺骨に「肉を削がれた痕」が?...中…
  • 9
    「この巨大な線は何の影?」飛行機の窓から撮影され…
  • 10
    現地人は下層労働者、給料も7分の1以下...友好国ニジ…
  • 1
    中国戦闘機が「ほぼ垂直に墜落」する衝撃の瞬間...大爆発する機体の「背後」に映っていたのは?
  • 2
    「テスラ時代」の崩壊...欧州でシェア壊滅、アジアでも販売不振の納得理由
  • 3
    「さようなら、テスラ...」オーナーが次々に「売り飛ばす」理由とは?
  • 4
    「一夜にして死の川に」 ザンビアで、中国所有の鉱山…
  • 5
    テスラ失墜...再販価値暴落、下取り拒否...もはやス…
  • 6
    「今まで食べた中で1番おいしいステーキ...」ドジャ…
  • 7
    市販薬が一部の「がんの転移」を防ぐ可能性【最新研…
  • 8
    テスラ販売急減の衝撃...国別に見た「最も苦戦してい…
  • 9
    テスラの没落が止まらない...株価は暴落、業績も行き…
  • 10
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中