【米中覇権争い】アメリカの「戦略的要衝」カリブ海でも高まる中国の影響力、「キューバ危機」の再来も!?
CREEPING CLOSER
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<米軍基地が引き揚げたカリブ海の小国「アンティグア・バーブーダ」に中国の経済特区が出現した。国家並みの行政機能を持つ海運ハブは諜報拠点にもなる>
米領バージン諸島までは300キロとちょっとの距離だ。ここはカリブ海東部に浮かぶ小さな島。その一角を占める広大な森とその先に広がるマリンブルーの海をぐるりと指さして、暑いのに全身黒ずくめの警備員が中国語で言った。
「どうだ、1つの国みたいだろ」
この島の名はアンティグア。独立国アンティグア・バーブーダの首都セントジョンズがある。まるで地上の楽園だが、もうすぐ政府の役人は中国の習近平(シー・チンピン)国家主席の思想を学ぶことになる。中国企業の仕切る経済特区(SEZ)ができるからだ。
本誌が入手した資料によれば、経済特区内には税関や入国管理所、港湾施設、専用の航空会社ができ、独自の旅券も発行する。そして物流だけでなく、暗号資産(仮想通貨)や美容整形といった分野の企業、さらに「ウイルス学」の研究所も進出してくるらしい。
カリブ海には「アメリカ第3の国境」とも呼ばれる戦略的に重要な島がたくさんある。そんな場所で、中国の国有企業とその系列企業が急速に存在感を高めている。アメリカにとっては座視できない事態であり、1960年代にソ連がキューバに拠点を築いて以来の深刻な外的脅威となりかねない。
実際、米軍は懸念を深めている。「中国は商業的・外交的プレゼンスを軍事目的に利用するかもしれない。現にアジアやアフリカ、中東では商業協定を悪用し、相手国の港湾を軍事目的で利用している。ここでも同じことになりかねない」。米南方軍司令部(フロリダ州)の広報担当は本誌にそう語った。
かつてアメリカの「裏庭」と見なされた島国が中国から何億ドルもの融資や支援を受け、中国の国有企業が港湾や空港、水道などの基幹インフラの建設を請け負い、いつの間にか国全体が中国の「前庭」と化してしまう。そんな予感がする。
セントジョンズで本誌の取材に応じたガストン・ブラウン首相は、中国と習への賛辞を惜しまなかった。アンティグア・バーブーダの人口は10万人に満たず、国土の面積は約440平方キロ。
ブラウンに言わせると、欧米諸国は同国の必要とする援助をしてくれないが、「中国は信義を重んじる国であり、小さな国や貧しくて疎外された人たちに一定の共感を寄せている」。
彼は今年1月に中国を1週間かけて訪問した。滞在中に首都北京で大使館を開設(国交は1983年からある)し、少なくとも9つの覚書を交わした。中国の船舶と船員に航行の自由を認めること、ガバナンスに関する習近平思想をアンティグア・バーブーダ政府の関係者が学ぶこと、などが含まれている。